「医療的ケア児小1の壁」の打破を!保護者自身が立ち上がった日
6年前の2014年9月に、日本で初めて医療的ケア児を専門的に預かる「障害児保育園ヘレン」をフローレンスは立ち上げました。
それまで医ケア児の保育は「ありえないほど危険」でほとんどの保育園では預かれず、ほぼ100%母親が仕事を辞めて子どもの看護と介護を24時間365日体制でやっていました。
それから6年経って、ヘレンも6園に増え、姉妹事業である「障害児訪問保育 アニー」も生まれ、少なくとも都内においては医ケア児を育てながら働く、というのは「普通のこと」になりつつあります。
しかし、ヘレンやアニーを卒業したらどうなるか、
せっかく辞めずに済んだ仕事を、辞めなくてはいけなくなってしまうのです。
極度に不足する医療的ケア児の放課後預け先
障害児向けの放課後の預け先として、「放課後等デイサービス」という障害福祉サービスがあります。
しかし、現在、医療的ケア児を受け入れられる放課後等デイサービスは、都内でも数が非常に限られているのです。
さらに、親がフルタイムで働き続けられるだけの長時間預かりをする事業者は都内でもまだありません。
預かれば預かるほど運営が厳しく…構造的な課題
なぜか。
医療的ケア児を預かるには看護師を配置する等、多大なコストがかかるのですが、障害福祉サービスの報酬にそれが含まれてないから。
なので、やればやるだけ赤字になる、と。
東京都には、就学前の児童発達支援事業という障害児向け通所施設には、「都加算」という仕組みがあって、短い時間ならギリで成り立つのですが、子どもが進学して放課後等デイに行くと、都加算が無くなる、という謎仕様になります。
とにかく財務的には、無理ゲーなのです。
「今まさに声をあげなければいけない」――親たちの決意
「笑顔あふれるヘレンにずっと居られればいいと願って止まないのですが、子どもたちもあっという間に成長し、ヘレン卒園後の地域の預け先について考えなければならない時期となりました。」
9月、フローレンス代表の駒崎宛に、障害児保育園ヘレンの親御さん3名からメールが届きました。
内容は、お子さんが卒園した後、このままでは働き続けるのが難しいこと、この現状を変えるために保護者主導で提言活動を行おうとしているということでした。
メールには、丁寧な文章でこれまでの感謝と決意の言葉がつづられていました。
「このまま何も行動を起こさなければ状況は変わらず、ヘレン卒園後の私たちの仕事継続もかなり厳しいままだと考えております。
医ケア児のおかれる状況は、ここ数年で大きく変わってきました。その理由は、ヘレンができたことや、区立保育園でも数名の医ケア児の受け入れが始まったことかと思います。 これまで保育園に入れず、医ケア児を育てながら仕事をすることは夢のような話だったのが、保育園の皆様のご協力により実現でき、私たちは医ケア児を育てながら仕事を両立させる第一世代 となりました。
これまで以上に就学後の就労継続への気持ちも強く、今まさに声をあげなければいけない立場にあると考えております。
こうして駒崎さんへご相談させていただいているのは、私たちがフローレンスに支えられて、今、 幸せに生活できているからです。
子どもが産まれて、突然、障害と共に生きることになりました。これまで生きてきたなかで周りに障害のある人はおらず、どのような生活になるのか、この子は幸せになれるのかという不安に押しつぶされそうでした。
子どものことだけではなく、医療的ケア児を受け入れてくれる保育園がなく、世の中のママは保活に励んでいるのに、自分は保育園に申し込むことさえできず、このまま仕事を辞めなくてはならないと思っていたなか、フローレンスさんのヘレンに出会い、私たちは救われました。
ヘレンのおかげで、私たちは半ば諦めていた仕事に復帰でき、今まで通り当たり前に働くことができました。そして、改めて働くことの意義ややりがい、社会へ参加し貢献できる喜びを感じることができました。そして、何より、子どもはヘレンという居場所ができ、 毎日大好きな先生やお友達との関わりのなかで、健やかに成長していってくれています。
(中略)
ヘレンは、障害がある子の居場所と母親の就労継続を叶えてくれただけでなく、障害があっても たくさんの喜びや幸せがあることを教えてくれました。そして、先生方が注いでくださったたくさんの愛情は、これから子どもの宝物になっていくと思います。 」
この手紙を読んだ時、恥ずかしいですが、僕は涙が溢れました。
メールには、みずから住んでいる区へ提出した要望書、園の保護者さんから集めた署名とメッセージ、また地域のお母さんたちへとったアンケート調査の結果が添付されていました。
僕は、すぐに親御さんとのオンラインMTGをセットしました。
そして、これまでに実施してきた政策提言の事例を情報提供するとともに、親御さんの提言活動に出来る限りのサポートをすることを約束しました。
11月25日(水)、都知事への面会が実現!
親御さんたちの懸命な活動が実を結び、協力の輪はさまざまな当事者団体や支援団体へと波及していきます。そしてその声は、ついに東京都知事まで届きました。
11月25日(水)、東京都庁で面会の機会をいただき、彼女たちが結成した「医療的ケア児・肢体不自由児の保護者の就労支援を求める会」代表の松岡さんから、小池百合子東京都知事へ以下4つの提言をまとめた要望書が手渡されました。
そこには、
・放課後デイにも都加算つけてください
・特別支援学校の中に医ケア児を預かれる学童作ってください
・それでもダメなら、医ケア児の家に看護師が訪問する「居宅訪問型児童発達支援事業」を学童代わりに使えるようにしてください
・今だと学校に親が付き添えって言われて、引継ぎ3ヶ月以上かかるけど、そこを看護師でもよくして、その部分の費用を補助してください
と正にもっともだ、という要望が並んでいたのでした。
都知事や都庁が動いてくれるかは、正直分かりません。
コロナで忙しい中で、医ケア児の親たちの就労が、彼らの優先順位の中に上ってくれるのか、まだまだ不透明です。
サービサーを超えて
けれど、僕は都知事の横に並びながら、ものすごく感動していました。
というのも、ある意味ヘレンの保護者の人たちは「課題を抱えた人たち」で、僕たちがそれを支える、という構図でした。
そこにおいて、支援するー支援される、という一方的な関係性が内包されています。
それはそれで社会サービスを提供する、という僕たちの「サービス・プロバイダー」としての責務なので、とても大切なことだと思っています。
しかし一方で、P・ドラッカーは「非営利組織とは、人を変えるためのチェンジ・エージェントである」と喝破しました。
人の能力を伸ばす、人の意欲を引き出す、人の行動を変容させる、いずれにせよ、人に変化をもたらすのが、本質的な仕事なのだ、と言ったのです。
今回、ヘレンの保護者の方々は、「助けられる人」という存在から、「(自ら制度を変えることで)社会を助ける人」に変化しました。いや、もともとそういう潜在的可能性を持っていた人たちが、ヘレンとの出逢いによって、そうしたアクションをとる心のスペースができただけなのかもしれません。
そうだとしても、助けるー助けられる/サービサー・サービス消費者という一方的な関係を超えて、「共に社会を変える」という関係性になれたことに、深い喜びを感じたのです。
これが、我々NPO「だからこそ」できることなのかもしれない。
そう思えたのです。
これからも、フローレンスは利用してくださる方々と、助け助けられるという関係を超え、共に「クルー」(同乗者)として、世の中を変えていきたいと思います。
そしてこの変革の輪に、医療的ケア児家庭を思う全ての政治家や公務員、一般市民の方々が連なってもらえたら、心から嬉しいです。
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