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【イギリス視察報告】CIC(公益会社法人)制度について

在英日本大使館にて、CIC室(The office of the Regulator of Community Interest Companies)の統括監察官(Regulatorを意訳しました)のサラ・バージェス氏にヒアリングを行いました。
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イギリスは社会的企業を支えるためにCICという法人格を2004年に新たに創りました。CICはCommunity Interest Company の略ですので、地域益会社、とでも訳せそうですが、よく聞いてみるとこのCommunityの定義は非常に広く、地域的なエリアはもちろんのこと、社会的弱者に対する社会サービスを行っている場合においては社会的弱者の方々の連なりが「コミュニティ」になるので、意訳すると「公益会社法人」とでも言えようかと思います。
イギリスではサッチャー政権において構造改革が推し進められ、小さな政府に舵を切りました。非効率な公共サービスを民間開放し、補助金も見直したことから、民間のNPO(イギリスではCharitiesという言い方が一般的)が政府補助金や寄付だけに頼らずに事業によって経済的自立をし、またビジネスの手法を使って社会問題を解決する必要性が出てきました。
そこからSocial Enterprise (社会的企業)の概念が生まれ、社会的企業を起業する人達を特に社会起業家(Social entrepreneur)と呼ぶようになっていきました。
こうした実態が生みだされてたのですが、多くの社会的企業は法人格としてはCompany limited by gurantee やCompany limited by shares という営利企業が使う法人格か、あるいはRegistered Charities という伝統的なNPOの法人格を使っていました。法人格に関係なく、彼らは自分達のことを社会的企業と認識しており、ある種様々な定義が団体ごとに、あるいは場合に応じて使い分けられていたわけです。
こうした状況の中、より社会的企業が活躍しやすい土壌を創っていこうという志を持って、Baites Wells and Braithwaite弁護士事務所の上級パートナーであるStephen LLoyd (ステファン・ロイド)氏がCIC構想を提起しました。
ロイド氏の提起は政府に届き、主だった社会起業家や中間支援団体のトップの方々と委員会が作られ、協議を重ねたそうです。
ロイド氏が初めに描いた法人像とは異なったものになりつつも、CICは労働党政権下において2004年に実現しました。
そこから5年近く達、2010年1月時点において約3500法人に拡大しました。法律制定当初はおそらく年間200~300法人程度が生まれていくだろうと予測していたそうですが、実績は予測を大きく上回りました。
さて、肝心の法人格の中身ですが、主に下記のような特徴があります。
・存在目的が社会的目的(社会的課題の解決)のものに限定
・公益を目的とした法人だが、株式を持つことができる
・しかし株式の配当は低い額に制限される。(Asset Lock)
・株式による議決権はLLCのように制限可能
 (つまり普通の株式会社は株を一番持っている人が一番偉いが、そうさせないことができる。)
・寄付はもらえるが、寄付者へのメリットである寄付控除はない
・助成金はもらえる
・法人税の優遇等はない
・株式があるので合併やM&Aが可能
日本ではNPOの認証は内閣府のNPO室というところが行っていますが、イギリスでは非常に興味深い機構の作り方をしています。
まずビジネス・イノベーション・技術省(略してBIS。日本の経産省にあたる)の下にCIC室が置かれていますが、ここはBISから独立した権限を持っており、スタッフも生粋の公務員ではなく、民間人を期限付きで公務員に任命しているのです。CICの統括監察官であるバージェス氏自身も20年間近くNPOに勤め、自らの組織をCICに転換した経歴のある方です。NPOのことも社会的企業のことも分かっている人が、CICの責任者になる、というところが大変優れているところだと思います。
Regulatorは直訳すると「規制する人」ですが、その規制の仕方は学ぶべきところがあります。バージェス氏は何度も繰り返しましたが”light-touch management”であるべきだ、ということです。
light-touchは「過剰に縛らず自由度を高く」という意味で使われていますが、基本的にはCICを事細かに審査し規制する、ということではなく、「基本的には信頼し、問題があったら即座に調査する」という姿勢なのだそうです。
日本のNPOの場合は事前審査が煩瑣かつかなり労力のかかるものです。ただ一度通ってしまうと事業内容の中身まで突っ込んでくることはありません。イギリスの姿勢は、「初めは入りやすく、ただし報告等はきっちりしてもらう」という形で、哲学の違いを感じます。タレこみも大いに受け付けていて、役所が全て管理することが不可能なことが分かっており、その分同じ業界の団体や受益者達がチェックを行い、行動に問題があればCIC室に通報し、彼らが調査に乗り出す、ということです。
5年間で認証取り消しのような事態は、幸運にもなかったようですが、バージェス氏曰く「取り消しがなかったのは嬉しいことだが、そういう事態はこれから当然あると予測されるので、私達が正しく取り消し業務を行う練習ができていないということは一方で問題でもある。」ということでした。
基本的にはうまく行っているCIC制度ですが、問題もあります。
まず、国民的認知があまりないそうです。ここらへんは日本でも「社会的企業って何?」という状態なので近しいものを感じますが、イギリスも似たようなものみたいです。認知をしっかり作っていく必要があると。
またCICへの批判もあります。ソーシャルビジネスコンサルタントであるUday Thakkar
redochre代表)は「6万あると言われているイギリスの社会的企業なのに、CICの数が3500というのは少なすぎる。」と言います。
ではどこが修正のポイントかと問うと「投資家へのインセンティブを強くすべきだ。アセットロックがきつすぎる」という回答を得ました。
実際には私達がイギリスに着いた2週間程度前に配当制限が5%以内(イングランド銀行基準)から20%以内に緩和されたそうです。一見通常の営利企業と非営利企業の境が曖昧になってしまうのではないかと思ったのですが、それに関しては「(存在意義や存在自体が社会的なことに)Regulateされていることが決定的に違うので、両者は曖昧ではない」という答えをバージェス氏は仰っていたました。
最後にひとまず私見を述べます。まず株式を持てるNPOという発想自体は日本の社会的企業の今後30年を考えると非常に示唆に富んでいます。株式会社と異なり資本金がないことから不安的な立ち上げ助成金をパッチワークせざるを得ず、また規模拡大の際にも融資を中々受けられない我々にとっては、株式と言う新たな資本調達手法は魅力的です。
とはいえ配当に関しては私は懐疑的です。配当を最大化するような投資家からの圧力は、資本市場においては健全な利益最大化のインセンティブになりますが、社会事業においては社会的弱者からの搾取を誘発する場合がままあります。英国のようなアセットロック(配当制限)も、日本の場合は非上場企業のほとんどがそもそも配当していないので意味がありません。モハメド・ユヌスの提唱するような「非配当株式」の方が我々の社会には合うのではないかと考えました。
非配当株式は寄付性の極めて高い出資ですが、寄付と違って議決権を持つことができる(もちろんLLCのように議決権をコントロールできればなお使いやすい)ことと、ある規則のもと(例えば譲渡したりすることで)元本が返ってきます。福祉作業所が増築する場合等これまでは市民債等を発行するアクロバティックな方法が取られていましたが、障がい者の親からのミニ出資を受けていく、というような選択肢も取れるようになります。
投資家のインセンティブ設計には配当性向が高くない日本社会では、配当ではなく税額控除(もしくは所得控除)によって対応するべきだと思います。これはベンチャー支援において「エンジェル税制」として既に立法化されていますが、これをソーシャルベンチャー支援にも拡張・適用することでクリアできます。
結論として、我が国の新しい公共の担い手たる社会事業者に対しては、CICの良い部分を取り出し、かつ(配当性向の低さ等)日本に固有の特徴を加味した、新たな法人格を創設すべきであると感じました。
注1)細かいので本文では書きませんでしたが、CICには2タイプあります①Community Interest Company by Gurantee と②Community Interest Company by Shares です。これは営利企業の法人格と対応させていて、それぞれに配当や助成金の有無に違いがあります。
注2)CICの数の少なさを失敗と位置付けるか否か、はイギリスの政策目標によります。数をプライオリティと置くのか、価値のある活動をする団体がしっかりと生まれていくことが目標なのか、どのようなバランスを求めていくか、によって成否は判断されると思います。
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