駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

「子ども・子育てビジョン」をビジョンで終わらせないために ~「国民保育券」構想~


政府は1月29日に「子ども・子育てビジョン」を閣議決定しました。日本の子どもたち、そして親達の環境を国家としてどのようにしていきたいのか、を数値目標に落とし込んでいます。 http://bit.ly/deLKRm


まず数値目標を出す、という姿勢はとても良いと思います。なおかつ例えば私の専門分野である病児保育に関しては現状の31万人から200万人に、ときちんと利用者数を置いたところは評価できます。これまで自民党政権では利用者数ではなく、施設数を目標数値に置いていました。これは犯罪率を下げるために、犯罪被害者数を何%減少させる、と言う代わりに、「警察署をいくつ作ります」と言っているようなもの。目標と手段が逆転している状況が是正されました。
では、この立派なビジョンは実現可能なものでしょうか?残念ながらこれまでの方法をそのまま使うとしたらビジョンは単なるビジョン(夢)で終わりそうです。
例えば病児保育を例にとりましょう。公表資料によると病児保育+延長保育+休日保育で合わせて200億円が予算として計上されています。
このうちの大部分である150億円を病児保育に使えたとしましょう。
現在政府の唯一の政策オプションは病児保育施設を作ることですので、当然これまでどおりでいくならば、政府は150億円を病児保育施設の増加に使います。
そうすると
150億円(予算)÷840万円(年間運営費)=1785施設(増やせる施設数)
となります。この1785施設でどれだけのこどもを預かれるかと言うと、
960人(施設の年間定員数)×36%(東京都の病児保育施設の平均稼働率)×1785施設(150億円で増やせる施設数)=61万6896人(増やせる利用者数)
となります。
先程31万人から200万人に増やそう、というのが子ども・子育てビジョンの目標値だとご紹介しました。しかし150億円かけて増やせるのは理論値でも約61万7000人。
全然足りない!!!のです。
なおかつこれは100%国がお金出したら、という仮定で、実際は自治体と折半。そうするとお金がない自治体は「うちは無理だわ」ということで手は挙げない。よしんば手をあげたとしても受けてくれる小児科医が理論値程いるかというと、いないわけです。というわけで、この61万というのは、ほとんど奇跡的な前提が揃っても、それでも61万人、ということで実際はもっともっと少なくなります。
そうです、このままだと目標値とかけ離れた数値しか達成できないまま「すいません、できませんでした」ということで終わりそうな匂いが濃厚な政策目標となっているわけです。
さてさて、ここで批判だけでは単なる批評家と一緒になってしまうので、現場の実践家たる私は代替政策を提案致しましょう。
名付けて「国民保育券」構想です。
「国民保育券」というクーポン券(スイカみたいなICカードでも可)を発行し、病児保育のサービスを受けた場合にお金の代わりに使えるようにするのです。
病院に行った時、医療費の100%を患者さんが払うのではなく、そのうちの3割を患者さんが負担して、7割は皆で貯めた(+税金)保険料を取り崩して病院に支払われますよね。あれと同じ仕組みで、病児保育を使ったら7割は国からもらったクーポン券で払って、利用者は3割だけ負担すれば良いような仕組みです。
例えばベビーシッター会社に病児保育業界に参入してもらって、病児保育をやってもらったとしましょう。東京都のベビーシッター料金の平均は1時間で1500円~2000円の間なので、仮に1500円でやってもらったとします。
そうすると普通に払うと、
1時間1500円×10時間(朝8時~夕方6時)=1万5000円(1日の病児保育料)
となります。
このうち7割が国を持つとすると
1万5000円×70%=1万500円
を国が国民保育券として発行します。
利用者の負担は
1万500円×30%=4500円
という低額で病児保育が利用できるようになります。(生活保護世帯等は100%国民保育券でも良いでしょう)
こうした仕組みだと、一体どれだけの人が助けられるか計算してみましょう。
先程と同じ前提で、
150億円(予算)÷1万500円(国民保育券で70%負担)=142万8571人(国民保育券/クーポンで増やせる利用者数)
となります。先程の病児保育の施設を作っても最大61万7000人弱しか利用できなかったのに対して、国民保育券(クーポン)を発行することでのべ142万8571人の子どもたちを助けることができます。
142万8571人:61万6896人=2.31:1
なので、病児保育施(箱モノ)を作るよりも投資対効果は2.3倍も良いことになります。これは「ハコを作るのではなく、市場を創ろう」という考え方です。国民保育券のようなクーポンを発行することで、国民が病児保育に使える可処分所得が増えるので、当然それを狙う新規参入者(ベビーシッター企業や子育てNPO)が増えます。これまでの「病児保育なんてやっても儲からないし・・・」という状態から「病児保育を仕事にできるぞ」という状態に持っていくのです。
もちろん9割が赤字と言われる全国800の箱モノ施設にもクーポンが使えるようにしてあげれば、既存の施設の経営も助けてあげられることになるでしょう。
ということで、箱モノ施設を予算のあらん限り作りまくるよりも、国民保育券のようなクーポンを発行し、利用者補助をしてあげた方が投資対効果が高い、というのは四則演算さえ分かれば明確に理解できるわけです。
さて、国民保育券には続きがあります。病児保育業界で実験的に導入し、効果がでたら、今度はこのクーポンを延長保育や休日保育、学童保育や認可外保育施設でも使えるようにしていくのです。
そうすることによって、学童保育が経済的に成り立つのが難しくて利用しづらい形態(17時で閉園等)になってしまう「小1の壁」問題も解決していけるし、認可保育所と認可外保育所が補助金が違いすぎて全く競争にならない(ゆえに認可保育園でしか運営できないが、認可保育園には参入障壁があって増えない)、という「イコール・フッティング問題」の解決にも貢献できます。
そんなわけで子ども・子育てビジョンでせっかく財源を確保したのであれば、これまでの政権と違って、このような戦略的な政策によって効果を生みだして頂きたいと思います。
厚生労働省政務三役(大臣・副大臣・政務官)及び厚生労働官僚の皆さん、ここらで本気でこの問題に対して実際的に手を動かしましょう。出産と共に7割の女性が仕事を辞める恥ずべき社会を、大転換させるために。美しきビジョンで終わらせる選択肢など、私達には許されていないのですから。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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