駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

総理辞任に想う


始めて総理にお会いしたのが、昨年の12月でした。


●鳩山総理とお会いしました
http://bit.ly/872iFQ
以前より官邸で定期的にお話させて頂いていた松井孝治内閣官房副長官にお引き合わせ頂き、寄付税制改革(税額控除)についてお話させて頂きました。
総理はきさくな雰囲気で、同行していたNPOカタリバの今村久美女史が、「総理こっち、こっち」と携帯に付いたカメラを手に持って迫っても、僕たちと並んで撮ってくれるような方でした。「お前ら一国の総理に対して非常識だ」と国内最大のNGO、ピースウィンズジャパン代表の大西さんに、僕までとばっちりで怒られましたが。
その後総理はご自身が所信表明演説で訴えた通り、市民が自ら当事者として社会を担っていく、新しい公共の実現に向けて、現場を回られたいと仰られました。
官邸より相談を頂いたので、例えばということで
アフラックペアレンツハウスや
http://bit.ly/6ANfxN
マドレボニータを紹介したところ、
http://bit.ly/ddBSOD
実際にそうした現場に行き、行政では行えない社会サービスを行っている方々の話に耳を傾けられました。
その後、お任せ民主主義を脱し、自ら行動する市民社会を創るために「新しい公共」円卓会議を発足。通常は官僚の皆さんが全て取り仕切る事務局に、僕は民間スタッフとして参加させてもらうことになりました。非常勤国家公務員ということで、期限付きですがパートの官僚になり、妙な気分でした。
そしてこの新しい公共円卓会議は、憲政史上初めて、その政策形成プロセスをインターネットで全公開する、という取り組みを行いました。
●憲政史上初の「審議会ダダ漏れ」
http://bit.ly/bDXQ32
これまで密室の中で議論していた政策に、多くの国民が参加することこそ、新しい公共にふさわしい、という松井内閣官房副長官のアイディアでした。
僕やNPOカタリバの大学生ボランティアが中継を行い、多くの人が視聴して下さいました。
円卓会議では様々な重要なテーマが提起されましたが、その中心には寄付税制改革(税額控除)がありました。ある問題が起きても、政府はすぐに対処することはできません。制度化となれば、何年も掛る。その間に誰かがその新しい問題に対処しなくてはいけない。そんな時に、欧米のように寄付が集まれば、国民が自律的に、かつ迅速に社会問題に対応できるだろう、と。
その障害になっているのが、寄付をめぐる様々なわずらわしい法的制約でした。それを取っ払って、国民が寄付をし、あるいは寄付を集め、自らの地域の課題を、迅速に自ら解決していくような社会を創っていくためには、寄付税制改革は避けては通れなかったのです。
税収を減らしたくない財務省の消極的な対応に対し、総理は何度もリーダーシップを取り、あの手この手で改革を命じました。
その結果、最終的な方向性を明示する「新しい公共円卓宣言」では、「税額控除」が歴史上初めてはっきりと公式資料に明記されることになりました。
こうした攻防戦を行って何とか成果を勝ち取っていく一方で、政治と金、普天間の問題でメディアの集中砲火を受け、総理の支持率は徐々に失われていきました。成果は新聞には載らず、外国の新聞で自国の代表が揶揄されたことが、嬉しそうに掻き立てられました。
そして総理の突然の辞任を、インターネットのニュースサイトにて知りました。
これまで新しい公共円卓会議で話しあってきた諸々の改革策は、これでパーになってしまうのか、と暗澹とした気分でいたところ、内閣府からメールが来ました。
辞任会見の翌々日、新総理が選ばれる直前である4日の朝8時半~、最後の円卓会議をします、という通知でした。
審議会が朝の8時半~、というのは異例中の異例です。
聞くところによると、自身が総理である最後の時間を使って、何とか新しい公共宣言に署名し、実効力を持たせたい、ということだったそうです。
せっかくこれまで議論してきた諸々の改革策を、このまま流産させてしまってはいけない、という執念に似た思いを、僕は感じざるを得ませんでした。
たった25分の会議では、総理への感謝の言葉が委員から語られました。
その間に、僕は非常勤国家公務員の辞任願にサインをしていました。
拍手と共に、宣言は署名されました。
総理は最後に委員一人一人と握手をしました。
僕は後ろの席でその姿を見ていたら、内閣府政務官である泉健太議員が「行かないの?」と近寄ってきて下さいました。「いや、恐れ多いので」と断ると「何言ってんだ、行こう」と背中を押して、総理のところまで連れて行ってくれました。
総理は僕の目の前まで来て、僕の手を取り、「ありがとうございました」と深く礼をされました。
そしてどこかから起こった拍手を背に、官邸大会議室を出て行かれました。
僕は自分が何もできなかったことに唇を噛みながら、彼の背中が見えなくなるまで、小さく拍手を続けました。
そして思ったのです。もはやボールは政治ではなく、我々にこそ投げられている。
政治家や官僚を叩きながら確実に腐っていく我が国の中で、僕は今日から自らの行いによって、半径1メートルの中で1ミリでも社会を変えていこう、と。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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