駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

待機児童の親ごさんのための参院選マニフェスト比較


参院選も明後日になったので、「よく分かんないなぁ」と思われている方への参考エントリーです。


なお、下記の意見は現場の保育事業者の僕の完全なる私見で、バイアスのかかったものですので、割り引いて最終的には御自身で御判断頂けると嬉しいです。
以下、福岡のIT会社が作ったiPhoneマニフェスト比較アプリ http://bit.ly/arzVlR を見ながら待機児童に関係あるところを抜粋して書きます。
●民主党 マニフェスト
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未来を担う子どもたちへの
政策を最優先にします。
チルドレン・ファースト。子育て支援や高等教育も含めた教育政策の
さらなる充実で、社会全体で子どもを育てる国をつくりあげます。
4子育て・教育
財源を確保しつつ、すでに支給している「子ども手当」を1万3000円から上積みします。
上積み分については、地域の実情に応じて、現物サービスにも代えられるようにします。
現物サービスとして、保育所定員増・保育料軽減、子どもの医療費の負担軽減、給食の無料化、ワクチン接種の公費助成などを検討します。
出産育児一時金、不妊治療支援など出産にかかわる支援策を
拡充します。
出産から成長段階までの切れ目のないサービスを実施します。
特に、就学前の子どもの保育・教育の一体的提供を進めます。
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ちょっと待機児童をどう軽減しよう、という具体的な戦略が全く見えない内容になっているのが残念。
実は保育業界を揺るがす革新的なプラン「子ども・子育て新システム基本制度要綱」http://bit.ly/9otFd0 というのがつい最近内閣府の泉健太政務官をリーダーにまとめられ、今後の保育政策の大枠を決定致しました。にも関わらず、その内容をなぜマニフェストに入れ込まないのか、全くの謎。
「子ども・子育て新システム基本制度要綱」は、幼稚園と保育園を統合させた「こども園」の計画を発表しているのですが、僕としてはこの度解禁になった「小規模保育サービス」に将来性を感じています。
これがきちんと制度化されれば、弊社がURさんの空き家を使って行っている「おうち保育園」のようなミニ保育園で待機児童を解消しよう!というサービスが、全国そこかしこでできるようになるのです。
これまで保育園と言うと大規模園が主流で、当然そうした園は都心に作りづらい。けれど例えば空き家やマンションの部屋を使って少人数のハートフルな保育をするミニ園を、地域のNPOや親グループが運営すれば、今の待機児童問題解決の大きな一歩になるのです。しかしこれまでは様々な規制が邪魔をしてきました。その壁をぶちぬく(可能性のある)新システム。待機児童問題解決の光が、少しずつ見え始めているのは間違いありません。
ウルトラ保守的な保育業界を変革しうる、こうした一連の改革の成果を、なぜマニフェストと言う表看板に持ってこないのか、僕は理解に苦しみます。
というわけで、マニフェスト単体だけを表するなら「項目は分かったけれど、待機児童解決に至る道筋が見えづらい」というのが感想です。もったいないです。
●自民党 マニフェスト
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39 子どもたちの成長に合わせた
   切れ目のない子育て支援
・国の責任において良質な保育所を整備・拡充し、待機児童ゼロ作戦を実現
・地方における保育所の定員割れ対策
・保育所施設基準の維持・改善、保育士等の処遇改善及び人員の確保
・3歳から小学校就学までの国公私立すべての保育料・幼稚園費の無料化
特に、保育に関しては保育の質の低下、保護者負担の増加、保育従事者の処遇の低下を引き起こす恐れのある保育の産業化ではなく、児童福祉として子どもの健やかな育ちを保障し、子育て家庭の支援を積極的に行うとともに、貧困や格差に対するセーフティーネットとしての機能も含め保育制度の充実を図ります。
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結論から言うと大変残念ながら、控え目に言っても「ひどい内容」で、率直にいうと「今の自民党である限り待機児童が解決されることはない」と言えるでしょう。
解説しましょう。問題は、ここ。
「特に、保育に関しては保育の質の低下、保護者負担の増加、保育従事者の処遇の低下を引き起こす恐れのある保育の産業化ではなく、児童福祉として子どもの健やかな育ちを保障し、子育て家庭の支援を積極的に行うとともに、貧困や格差に対するセーフティーネットとしての機能も含め保育制度」
保育の産業化=保育の質の低下、保護者負担の増加、保育従事者の処遇低下
と断言しています。つまり、株式会社やNPO等の民間事業者が入って来て事業として成り立つような状況は、悪である、と言っています。そうすると質も下がるし、保護者負担も高まるし、保育士さん達の給料も下がるよ、と。
一般の人は、意味が分からないと思います。「え、なぜ」と。
だって介護は、介護保険制度が生まれ、会社やNPOが参入してくる「産業」になったからこそ、世の中に広がったんじゃないか、と。それまでは介護は家族(といっても大部分は奥さん)の仕事、とされていて、「どうしてもダメだったら行政がやっている数少ない施設で何とかしましょう。どうしても、の時はね」という体制だったじゃないか、と。
ここには伏線があります。自民党を支えてきた、保育園事業者で作られる業界団体があります。(俗に保育三団体と呼ばれます。)
この方々が、保育園が「色んな人達ができる」ようにすることを大反対しています。表向きは、「営利追求している人達に任せると、子どもたちのことを真に考えない」「保育の質が落ちる」「保育士の給与を不当に安くする」等と仰っています。しかし、簡単に言うと、新規参入があると自分達の安定的なビジネスが脅かされるわけです。
ゆえに、保育園を運営できる資格を釣り上げるよう、政府に働きかけました。めでたく保育園は「社会福祉法人」という創るのがとっても難しい法人に限定され、新規参入は途絶え、既存の事業者で回していく、安定的な市場になったわけです。
しかし、保育園に入りたい、というニーズは激増。しかし新規参入を阻む「万里の長城」はがっちりと作られたまま。かくして待機児童問題と言う「人為的な問題」が取り立たされるようになったのです。
これらは自民党政権下において、起きたことです。
そしてその反省なく、票田としての業界団体にべったりの意見をいまだに掲げ続ける、この姿勢。一言言うとしたら「残念というか笑っちゃう」by小泉元首相です。
自民党への提言としては、業界団体べったりの利権お年寄り議員を放逐し、小渕優子議員、伊藤達也議員など、若手で保育問題について勉強されている議員を軸に、ゼロベースで子育て支援政策を組み直した方が良いと思います。
補足:大部分の保育士さん達は業界団体とは繋がっておらず、日々こどもの事を考えて一生懸命に働かれています。ごく一部の業界団体関係者が、保育業界全体に影響を与えている、という構図はとても残念です。
●国民新党 マニフェスト
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少子化対策のためにも格差社会の解消のためにも、仕事をしながら安心して子どもを育てられるように、子育て環境を一刻も早く整えて行く必要があります。国民新党は待機児童対策の一層の推進や病児保育の充実等、男性も女性もいきいきと仕事ができ、家族を大切にできるような仕組みづくりを進めていきます。
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理念やよし。具体性に欠けます。
●公明党 マニフェスト
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待機児童ゼロに向けた保育所の緊急整備を行うととも
に、保育ママや延長保育、病児・病後児保育、休日保育
など多様なニーズに応じた保育サービスの拡充を図りま
す。また、総合的な放課後児童対策の拡充を図るなど、
社会全体で子どもを育む環境の整備を推進します。
待機児童ゼロに向けた保育所の緊急整備を
行うとともに、保育ママや延長保育、病児・病
後児保育、休日保育など多様なニーズに応じ
た保育サービスの拡充を図ります。また、総合
的な放課後児童対策の拡充を図るなど、社会
全体で子どもを育む環境の整備を推進します。
認可外保育施設に関して、国の最低基準を
満たしながらも認可されない現行制度を
見直し、認可できる仕組みをつくります。
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自民党と共に待機児童問題を生み出してきた政党なので、基本的には僕の個人的評価は低いです。しかし公明党は福祉政党を名乗るだけあって、個別の政策には光るものがあります。(具体的だし。)
中でも待機児童問題にとって最も有効なのが、
「認可外保育施設に関して、国の最低基準を満たしながらも認可されない原稿制度を見直し、認可できる仕組みをつくります」
としているところ。
現在数多くある認可外保育施設。認可外、というと「ヤミでやっている」みたいなイメージですが、そうではないのです。単に行政が、自分の事業として認めていないだけの園。そうした園の中には、素晴らしい保育をしているにも関わらず、補助金が1円もおりません。(認可は規模に寄りますが平均年間3000万円~7000万円程度。)
そうするとどうしても親御さんからもらう保育料が高くなってしまい、高くなると親御さんが離れていきやすくなり、経営が苦しくなりがちです。
そうしたところをもっと積極的に活用すれば、待機児童問題解決に資するわけです。ここに関しては、公明党のマニフェストは評価できます。是非とも与党の時にやって頂きたかったです。
●共産党 マニフェスト
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「国の責任で認可保育所を1年間で10万人分建設し、待機児童問題を解決し、安心して預けられる保育制度を築きます。(中略)待機児童解消の名で、保育の『規制緩和』と子どもたちの『詰め込み』を行うことには厳しく反対します。」
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保育の規制緩和=人員配置変更、ではありません。
保育の質とは関係のない、使い勝手の悪い制度は多々あります。
また、1年間で10万人分建設、みたいなセリフは、共産党が政権を取ることが絶対無いゆえに言える、極めて現実性の低いお言葉だ、と専門家の立場から言わせて頂きます。
●社民党 マニフェスト
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子どもの貧困の解消に全力で取り組みます。
良質な保育施設や学童保育を増やし、待機児童ゼロにして、子どもの育ちと親の就労を保証します。
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具体性に欠けるのが残念。
とはいえ、子どもの貧困を正面切って押し出したのは評価。
●みんなの党 マニフェスト
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子育てしながら働ける環境づくり(待機児童ゼロ、保育ママ・病児・一時保育の拡充、育児休暇取得の円滑化、職場の意識改革など)。
幼保一元化の推進。
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キーワードの羅列だけで、具体的に乏しいです。
みんなの党はせっかく、保育問題に熱心な柿澤未途議員http://bit.ly/7mNZr や、江戸川区で長年ワーキングマザー支援をされてきた上田令子議員http://bit.ly/bGhyRW 等がいるのだから、彼らに具体的な戦略を書いてもらったら良いのに、と思います。大変もったいないです。
●たちあがれ日本 マニフェスト
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質の高い保育サービスを抜本強化します。具体的には、幼児用学習指導要領を策定し、幼保一元化など規制緩和、保育人材育成、幼児教育無償化、保育施設整備支援を集中実施、子育て後の職場復帰支援を一体的に推進します。
病児保育の附設を大幅に拡大します。
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キーワードは羅列しているのですが、「保育施設整備支援」等、旧来の大規模保育園へのハコモノ支援を前提にしているのが、古いです。また、病児保育も施設を前提にした「附設」という表現に、旧態依然とした感を感じます。
●新党改革 マニフェスト
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待機児童解消のための幼稚園・保育園の増設、費用の無料化の検討を通じて、バラマキ政策ではない、少子化対策の再構築を図っていきます。
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待機児童解消→費用の無料化 は論理的には繋がっていません。
また保育所の全面無料化は現実的ではありません。
●日本創新党 マニフェスト
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受給要件に所得制限を付けた「子育て応援券(使途を教育や保育に限定したクーポン券)」により、教育環境を充実させるとともに、教育産業を活性化する。
幼稚園、保育園の設置基準緩和ならびに一元化を行い、事業所内・病院内保育所等の設置も促進し、全国で「待機児童ゼロ」を実現する。
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杉並区長山田氏がおられるため、杉並区で実現された子育てバウチャーをマニフェストにいれられています。
僕も子ども手当の一部バウチャー化を提唱しているので、http://bit.ly/WkYON
このマニフェストには賛成です。
この「子育て応援券」を今は補助金ゼロでやられている認可外保育所等で使えるようにすると、認可保育園との格差が縮まり、認可外保育所の質向上、参入数の増加に繋がり、待機児童問題解消に繋がっていくことでしょう。
●幸福実現等 マニフェスト
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女性が安心して子どもを産める社会インフラをつくります。
・保育所設置の規制緩和などによって、子育てを支援する産業を育成します。
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規制緩和だけでは産業育成にはなりません。もっと具体的かつ独自な戦略を描いて頂きたいところです。
●女性党 マニフェスト
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働きたい女性が働けるように、保育園や学童保育の充足を急速に進めます。
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充足を急速に進める、というのが韻(ライム)を踏んでいて、ラッパー的にはすごく魅力的ですが、具体性に欠けます。
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というわけで、参考になりましたでしょうか。
どれも魅力的じゃない?
いやいや、そんなこと言わずに、それでも投票所に足を運んで下さい。国政に参画する意図を示さないのが、最悪の選択です。
我々はマニフェストというメニューを安全地帯で選ぶお客様ではなく、沈みゆく日本という船に今まさに政治家達と共に乗っている、船員なのですから。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
PCサイト http://www.florence.or.jp/
携帯サイト http://www.florence.or.jp/m/index.htm
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「おうち保育園」でお預かりができるかも知れません。
http://www.ouchi-hoikuen.jp/
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