駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

またしても公教育支出がOECD中最低な我が国への処方箋


非資源国である日本の最大の資源は人材だ。そして教育は投資である。
にも関わらず、以下のニュース。
●教育への公的支出、日本は3年連続最下位  OECD調査
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 【パリ=竹内康雄】経済協力開発機構(OECD)は12日までに、加盟国の教育施策を分析した報告書「図表でみる教育2012」を公表した。日本は国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合が3.6%(09年)と、加盟国で比較可能な31カ国中最下位だった。最下位は3年連続
 1位はデンマークの7.5%で、アイスランド、スウェーデンと続き北欧諸国の充実が目立った。OECD加盟国平均は5.4%だった。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1104H_S2A910C1CR0000/

ということだが、だから「教育にもっと予算を」というざっくりとした主張では、不十分だ。教育と言っても、小中高どこに公的支出がされていないのか、を分析しなくてはならない。
UNICEFの畠山氏によると、その答えは「就学前教育」(保育園や幼稚園)にあるという。

日本の教育段階別の公・私教育支出と教育の質・量をOECD諸国で比較した結果、日本の教育支出の特徴として以下の4点が挙げられる。
1)義務教育段階に対するGDP比の公教育支出は決して少ないものではなく、教育の質もOECD諸国で最高レベルにある
2)就学前教育に対するGDP比の公教育支出はOECD諸国の中でも最低で、教育の量にも改善の余地はあるが、特に教育の質について深刻な問題を抱えている

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このグラフにあるように、そもそも就学前教育を受けている子どもが100パーセントを切っている。ご存じの通り、保育所も幼稚園も行かせるのは義務ではないためだ。
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しかも、保育士(幼稚園教諭)一人当たりの子どもの数も諸外国に比べて格段に多い。
ここまで読んで、不思議に思われた方もいるだろう。別に小さいうちから教育なんてさせないでも、と。しかしそうではないのだ。就学前教育は実は最も社会的な投資対効果の高い教育投資なのだ。
どういうことか。大竹文雄教授が言うように、所得階層別の学力差はすでに6歳の就学時点からついている。
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そこでノーベル経済学者のJames Heckman(ジェームズ・ヘックマン)教授の「ペリー実験」がしばしば引用される。

 ペリー就学前計画とは、経済的に恵まれない3歳から4歳のアフリカ系アメリカ人の子どもたちを対象に、午前中は学校で教育を施し、午後は先生が家庭訪問をして指導にあたるというものでした。この就学前教育は、2年間ほど続けられました。そして就学前教育の終了後、この実験の被験者となった子どもたちと、就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子どもたちとの間では、その後の経済状況や生活の質にどのような違いが起きるのかについて、約40年間にわたって追跡調査が行われました
 その結果は、有意な差となって表れました。就学後の学力の伸びに、プラスに作用しただけではありません。介入実験を受けた子どもたちと、そうでない子どもたちを40歳になった時点で比較したところ、高校卒業率や持ち家率、平均所得が高く、また婚外子を持つ比率や生活保護受給率、逮捕者率が低いという結果が出たのです
 また、所得や労働生産性の向上、生活保護費の低減など、就学前教育を行ったことによる社会全体の投資収益率を調べると、15~17%という非常に高い数値が出ました。つまり1万ドルの投資に対して、1,500ドルから1,700ドルのリターンが返ってくるほど、投資効果が高いものなのです。これは通常の公共投資ではあり得ないほどの高い投資収益率です。

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さて、こうした研究をもとに、現在の日本への処方箋を考えたい。
畠山氏が危惧したような「子ども子育て新システムが潰されて予算投入が見送られる」という怖れは去った。子ども子育て関連三法によって、消費税から7000億円、それ以外の予算も合わせて1兆円が就学前教育に投下されることに決まったのは、ひと安心だ。(それでも公教育支出は最下位水準だが。)
まず、保育所をあまねく広げ、待機児童をなくし、就学前教育就学率を限りなく100%に上げること将来的には義務教育に3歳児以上の就学前教育を繰り入れることが必要だ。貧困化が急激に進む日本において、家庭環境に関係なく良質な保育(教育+養護)を提供することで、格差を中和できる。
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更には就学前教育の質を改善するために、大人一人あたりの子どもの数を少人数化させること。現状、認可保育所の最低基準では、保育士1人で0歳児は3人、1・2歳児は6人、3才児は20人、4才児以上は30人となっているが、これは多すぎて質の高いコミュニケーションの阻害要因となる。
子ども子育て関連三法では、おうち保育園をモデルにした「小規模保育」のカテゴリができた。現状、小規模保育では0~2歳までは保育士1人に対し子どもは3人、という認可基準以上の手厚い人員配置が定められている。こうした新形態をテコに、マス保育から脱し、それぞれの子どもの個性を尊重したテーラーメイド保育を実施することで保育の質を高めていく方向性が考えられよう。
更には、貧困世帯や課題を抱える家庭にアウトリーチ(訪問)する機能を保育所や保育事業者に持たせることだ。もはやパンクしている児童相談所にその機能を押し付け続けてはいけない。問題家庭を定期的に見回り、時には一時保育などを提供しながら伴走し、問題行動を予防していく体制を取っていく。
子ども子育て関連三法では、保育史上初めて「居宅訪問型」というアウトリーチにも国費投入が可能になる類型が制度化された。まだ細部の詰まっていない同制度だが、使いようによっては非常に強力な貧困・虐待予防ツールにすることができる。
まとめよう。
・非資源国である日本では人材が最も重要な資源。その人材を育成するために、教育投資は必須
・特に就学前教育分野に社会的に重点投資することで、貧困の再生産の防止など高いリターンを得ることができる
・今後詳細が議論される子ども子育て関連三法を、就学前教育の強化という観点から真に「使えるツール」にする
・具体的には小規模保育の展開と待機児童の解消・アウトリーチ型支援の実現
就学前教育が、日本の将来の鍵を握っている、と言っても、それは決して言い過ぎではないのである。
追記
そして私達一般の国民ができることは「子どもたちに投資しよう」ということを、投票や寄付、事業活動によって示すことだ。景気を上げるために公共工事、という甘言を信ずることなく、保育士や幼稚園教諭の待遇を上げ、少人数で手厚く関わり、貧困の只中にいる子どもたちをケアする。そんな意志を持った政治家に票を。そしてそんな活動をしているNPOや住民グループに寄付を。さらに自らの仕事の中で子どもたちの環境を向上できないか、を考えること。与党がどこになっても、声をあげていこう。


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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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