駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

杉並区の保育園反対運動に関する、実務家からの考察

 こんにちは、杉並区永福町で小規模認可保育所と、荻窪で障害児保育園を運営している、駒崎です。
今回は、昨今話題の「杉並区公園保育園反対運動」事件について、役所と住民の方へのヒアリングを経た上での考えを、お話したいと思います。
 なお、この事件については各種マスコミで、住民vs役所という構図で描かれている一方、今回は役所には概ね「杉並区がんばれ!」「住民のエゴはひどい」という意見が寄せられているようです。こうした対立構造の現状については、分かりやすく報道してくれている各種メディアに任せ、僕は保育園運営の実務家として「どうしていったら良いのか」に特化してお話しします。
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(ANNニュースより。賛成派の女性は涙ながらに保育所の必要性を訴えたが、「趣旨が違う」と反対派からのヤジを浴びた)
【杉並区が行ったこと】
 まずおさらいします。杉並区は悪化する待機児童数を何とかすべく、「すぎなみ保育緊急事態宣言」を発し、区立公園を含めた区有地に認可・小規模認可保育所をたくさん作ろう、と方針を打ち出しました。
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 以下の11の区有地・区立公園内での保育所建設計画のうち、「3つ程度(杉並区保育課談)」で反対運動が起きました。そのうちの一つが、テレビ等でも取り上げられた6時間近く談判になった、久我山東原公園です。
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【認可保育所を建てる場所はあるのか】
 住民側は「わざわざ子ども達の遊ぶ公園を使う必要はない」「他の場所を探せ」等の意見を主張して反対しています。さて、「他の場所」はあるのでしょうか?
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【簡易検証】
「他の場所」を簡単に探してみましょう。認可保育所の平均定員数が108人建築面積平均が674平米なので、そうした土地が杉並区にどのくらいあるか、物件数No1のHomesで探してみました。
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 な、ない・・・。杉並どころか、23区でありませんね。
 では、借りずに土地を買ってしまいましょう。杉並区で600平米以上で買える土地はというと・・・。(今度はSUUMOで)
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 一件だけでした。でもやっぱり超高いですね・・・。買うのは保育園事業者にとってはハードルが高そうです。
 そうしたら、商業物件を借りることにしましょう。600平米以上の物件はどのくらいあるでしょうか。
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 1件でした。物件数No1のHomesで、1件。しかも保育所は新耐震基準に合致していないといけないので、築35年はかなり難しい可能性が高いです。
 仮に耐震基準がいけたとしても、ここから公園の距離(園庭がないの
で子どもの足で行ける距離でなくてはいけない)や、周囲にクレーマーの方々がいない等の条件をクリアする必要
がありますので、おそらく難しいんじゃないかと思います。
 つまり「他の場所につくれ」という主張は、現実にはかなり難しいということが分かります。
では、打つ手はないのか。その辺りに論を進めます。


【杉並区ができること】
 杉並区は頑張って区有地や区立公園を活用しようとしていますが、国家公務員住宅跡地も活用できるでしょう。折しも週刊現代が特集しています。
大モメ杉並区を救うか 「国家公務員宿舎跡地」に保育園を (日刊ゲンダイ) – Yahoo!ニュース http://bit.ly/210mNJL
 おそらくタイムライン的には来年4月には間に合わなさそうですが、手を挙げておくに越したことはありません。
 また、世田谷区でも行った「物件オーナーさん、土地を借ります・買います」のチラシを、区報に混ぜて全戸配布するのも手です。世田谷区長との対談では「結構申し出があった」ということだったので、ある程度期待できるでしょう。お金はかかりますが、土地を買っておけば、将来介護施設が不足になった時に、保育所からコンバージョンもできるでしょう。
 さらには、認可保育所の施設基準のハードルも見直しましょう。
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 これは杉並区の認可保育施設の基準ですが、「水遊びを行える程度の面積は、保育施設内に確保すること」
「屋外遊技場から直接使用できる幼児用トイレおよび手洗いを設置すること」って、ハードル高すぎです。水遊びを行える面積を保育所に確保しようと思ったら、商業物件では相当難しくなります。
 また、屋外遊技場(公園だとして)から帰ってきて、どこも通らず直接使用できる幼児用トイレを作ろうと思ったら、間取りは相当制限されるので、難しい物件探しが更に難しくなります。ここは保育の質にものすごくクリティカル、というわけでもないんだから、緩和しましょうよ、と。事業者はこれ見た瞬間に、かなり萎えます。
【国ができること 〜税制改正と小規模保育の規制緩和〜】
 さらに、国ができることがあります。というか、国ができることは大きい。一つは、こうした「認可保育所物件の不足」に対して、(世田谷区長も語っていますが)固定資産税や相続税を減免することが考えられます。
 アパートを壊して、地域の役にたつ保育園にしたい、と思った土地オーナーがいるとします。アパートのままにしておけば、固定資産税は6分の1に減免されますが、保育所だったらそれはなくなります。
 こうしたところに対し、アパート並みの減免措置をとることで、オーナーに保育所に土地を貸し出すインセンティブとなります。
 もう一つは、「小規模認可保育所を5歳までに拡大する」ことです。小規模認可保育所は、昨年度から施行された制度にもかかわらず、初年度で1655園に激増しています。その理由は6人〜19人定員なので、「小さくて作りやすい」ということ。大きい物件は見つけづらいですが、小規模の場合、相対的に見つけやすいです。
 しかし、この小規模認可保育所は0〜2歳まで、とされています。(卒園後に行く場所がなかったら、例外的に「特例給付」という制度を使って3歳以降もいることができるはできます)
 なぜ年齢制限されているかというと、子ども子育て新制度施行前は「待機児童が多いのは2歳までだし、3歳以降は幼稚園の延長保育で預かってくれるさ」という前提を厚労省が持っていたからです。
 しかし新制度が施行されても、特に都市部の幼稚園は延長保育を始めることはなく、3歳以降の受け皿としての期待は外れました。また、都内では3歳の待機児童も増えてきています。
 そこで、もはや意味がなくなった小規模の年齢規制を緩和し、「0〜5歳までの子どもを、少人数で預かるのが小規模認可保育所」と再定義し、制度改正を行うことです。そうすれば、100人分の大きな土地や大きな物件がないエリアに関しても、20人弱の物件を5つ作ることはできるので、待機児童解消が進められるわけです。
【まとめ】
 「なんて身勝手な住民だ!」と怒る気持ちはとても分かります。分かりつつ、やはり対話を重ねながら「いや、代わりの場所って言っても、ないんですよ」というのをちょっとずつ分かって頂きながら、やれることをやっていくしかありません。
 また、国は「杉並区大変そうだなー、うんうん」と対岸の火事を決め込むのではなく、これを機に税制改正と小規模保育改革を迅速に行うことで、自治体や事業者の取れる選択肢を増やしていく必要があるのです。
 ピンチはチャンス。みんなで汗かいて、知恵出して、待機児童を解消していきましょう!!
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