学校内の子どもによる盗撮をどう防ぐか?
8月23日、こんなニュースが報じられました。
私立高で女子生徒の着替え盗撮か 男子生徒複数が画像共有、名古屋(共同通信)
今年4月、名古屋市の私立高校の教室に小型カメラが仕掛けられ、着替え中の女子生徒約20人が撮影されていた。画像は複数の男子生徒によってLINEグループで共有されていた──という内容です。
被害生徒たちがそれを知ったのは6月上旬。校内のうわさ話が、きっかけでした。そして学校は8月21日の時点で、この件を「いじめ重大事態」として認定していないと報じられています。
この報道を読んで、僕は二つのことを考えました。ひとつは、これは特異な事件ではないということ。もうひとつは、「スマホ取り上げろよ」では、この事件は防げないということです。
これは例外的な事件ではありません
いわゆる撮影罪(性的姿態等撮影罪)が施行された後、中高生同士の盗撮で摘発された生徒は550人を超え、そのうち約4割が校内で発生しています(2025年7月、共同通信)。
冒頭の名古屋の件と並べて読みたい事案が、もうひとつあります。昨年12月に報じられた、愛知県の私立高校です。
女子生徒が男子生徒3人の依頼を受け、学習用タブレットを女子更衣室に設置して同級生の着替えを複数回撮影し、動画はやはりLINEで共有されていました。そしてこの学校は、スマートフォンの使用をすでに禁止していたと報じられています。欠けていたのは、学習用端末の使用履歴を確認する体制でした。
「朝スマホを預かればいい」では、なぜ足りないのか
こう思われた方も多いのではないでしょうか。登校時にスマホを集めて、下校までボックスに入れておけばいい。正直に言うと、僕も最初にそう考えました。
そして、これは半分は正しいのです。 生徒が自分のスマホで撮る事案には、はっきり効きます。撮る道具が手元にないのだから、機会そのものが消える。費用もほとんどかかりません。やる価値のある対策です。
でも、先ほどの二件はそれだとどちらも止められなかった。
名古屋で使われたのは、スマホではなく小型カメラでした。校門でスマホを集めても、ポケットの中の小さなカメラは通り抜けてしまいます。
もう一つの愛知の事案で使われたのは、学校が配った学習用タブレットでした。そしてこの学校は、スマートフォンの使用をすでに禁止していた。つまり、禁止した先に空いていた穴から起きた事案だったのです。
スマホを集めるのは有効な一手ですが、それだけでは足りない。
では、何が効くのか。僕の結論は、仕組みと価値観の二つを、同時に入れることです。
柱① 仕組み──ひな形は、もうあります
先生方にお伝えしたい朗報があります。ゼロから考える必要はありません。
岡山県教育委員会が、2025年11月に県内小学校の教諭が盗撮等で逮捕された事案を受け、「学校における盗撮防止ガイドライン」を策定してくれています。校内点検の設計が、かなり具体的でこれをパクらせて頂けたら良い。
-
年3回程度、不定期に、「校内で児童生徒・教職員が衣服を着脱する場所等」を点検
-
複数教職員の目視、学年チームでの相互点検、校舎配置図の活用、事前予告なし
-
時期は長期休業、文化祭・体育祭の直前直後、健康診断・水泳期間の前後、オープンスクールの前後
-
「盗撮防止点検表」で記録を残す
埼玉県も2025年9月に県立学校版を策定し、さいたま市を除く市町村教育委員会に配布して参考にするよう依頼しました。この埼玉系のひな形は、環境整備をこう定めています。
「更衣等を行う場所には、仕切りやカーテンを設置」 「更衣室等の鍵の管理や貸し出しについてはキーボックスで保管」
点検は日常(随時)、定期(学期1回以上、管理職とペアで)、臨時(行事前後)の三段構え。点検があることによって抑止効果も期待できます。
一方で、仕組みだけだと仕掛けられたカメラを見つけることはできても、「そもそもカメラを仕掛けるようなことをさせない」ことはできない。そこで出てくるのが、価値観です。
柱② 価値観を涵養する──「法律違反だから」で終わらないからだの権利教育
「価値観?盗撮がダメなんて当たり前だろ。伝えなくたってわかる。法律違反だし、犯罪だからな!」
仰ることは分かります。ただ、それだと足りないんです。
厳密にいうと、少年事件では、14歳以上は「犯罪少年」として家庭裁判所に送致されます。一方14歳未満は「触法少年」、すなわち「刑罰法令に触れる行為をしたが、その行為の時14歳未満であったため、法律上、罪を犯したことにならない少年」とされています。
つまり、小学校の教室で「盗撮は犯罪です」と教えても、制度上、その子たちの行為は犯罪になりません。盗撮への関心が芽生えはじめるのは、まさにこの年齢です。犯罪だから、というロジックだけだと、一定年齢以下の子どもたちにかける言葉がなくなってしまうのです。
では、どう教えれば止まるのか。僕は鍵は「からだの権利教育」だと思っています。
からだの権利教育とは、何をすることか
聞き慣れない言葉かもしれないので、先に整理させてください。
からだの権利とは、自分のからだについて自分が決める権利のことです。 誰に触られるか。誰に見せるか。どこまで見せるか。いつ見せるか。それを決めるのは、親でも先生でも友だちでもなく、本人である──という考え方です。
国際的には包括的性教育の中核に置かれている概念で、日本でも新しい話ではありません。文部科学省「生命(いのち)の安全教育」は、幼児期の段階からこう書いています。「自分の体は自分だけのものであり、大切にすること」。そして同時に、相手の体も同じように大切だと教えるよう求めています。
そしてからだの権利教育とは、これを子どもに手渡していく営みです。 「あなたのからだはあなたのもの」と「だから他の人のからだも、その人のもの」を、同じ言葉で同時に伝える。プライベートゾーン、境界線、同意──学年に応じて語彙は変わりますが、幹はこの一つです。
ちなみに、自分のからだが自分のものとして扱われた経験のない子に、他人のからだを尊重せよと言っても、ピンと来ない。他者の権利への意識は、自分の権利を実感したあとに立ち上がってきます。
なぜ、これが盗撮に効くのか
さきほど挙げた法律違反という話以外に、このからだの権利は明確に答えを与えてくれます。核心を一文にすると、こうなります。
他者のからだの権利侵害は、相手が気づくかどうかとは無関係に、撮った瞬間に完成している。
決めるのは本人だけ、なのだとすれば、盗撮が奪っているのは「見られたこと」ではありません。**「誰に見られるかを自分で決められなくなったこと」**です。だから被害の成立が、被害者の認知に依存しない。バレていない2か月間も、侵害はすでに起きている。「バレなければ被害はない」は、からだの権利の観点からすると崩れています。
そして、からだの権利という考え方は、法律とは関係なく存在しているので、だから14歳未満の子にも、そのまま使えます。
からだの権利教育の中の大事な概念で、同意というものがあります。同意には三つの要件があります。自由に選べること、十分に分かっていること、そしていつでも撤回できること。一度撮られた画像は、撤回できません。だから盗撮は、後から謝るという方法では原理的に修復できない種類の侵害です。
そして子どもに一番伝わるのは、「見る」と「記録する」の違いだと思います。記録は複製でき、時間を超え、空間を超え、文脈が剥がれる。記録とは、その人のからだの一部を、本人の管理の外へ永久に切り離す行為です。
そして、これはすでに国の教材に書かれています
「生命(いのち)の安全教育」指導の手引き(令和7年度改訂版)を読み直してみてください。小学校高学年では非接触型の性暴力として「のぞき・盗撮」が明示され、デジタル性暴力の概念も入っています。中学校では「同意なく距離感を詰める(境界線を越える)性的な行為は全て性暴力である」。そして全段階を通じた原則が「被害者にならない」「加害者にならない」「傍観者にならない」です。
新しい教育を入れる必要はありません。書いてあることを、盗撮という具体的な行為に接続するだけです。
なお、この改訂版はまだポータルサイトに載っていません(動画教材の準備待ちとのこと)。今ポータルを開くと改訂前の版に着地します。
明日からできる4つのこと
この事件から教訓を引き出し、学校ができることを整理します。
1. 更衣の場所を見直す。 今回の撮影場所は教室でした。体育の着替えで「男女一緒の学校あり」と答えた自治体が5割弱という調査もあります。男女別の着替えを進めましょう。また、仕切り、鍵、キーボックス管理等も行う。
2. 点検の日を決める。 年3回、不定期に、行事の前後。目視ですべて見つかるとは思わなくていい。点検の本当の価値は、置きにくくすることです。 そして「事前予告なし」でやる。この辺りは岡山県教委さんのガイドラインを参考に。
3. 1人1台端末(ギガ端末)・学習用端末を対策に含める。 スマホだけ預かって端末が手元にある運用は、穴が空いたままです。
4. からだの権利教育を、授業として入れる。 すでに「生命(いのち)の安全教育」の教材があります。学年に合わせて、自分のからだを決めるのは自分だという話から始める。そのなかで「拡散も加害だ」「傍観することも性暴力に加担すること」をはっきり教えること。
なお、この単元は先生が教えづらいという声をよく聞きます。無理に一人で抱えなくてよくて、外部講師を呼ぶ選択肢もあります。大事なのは、誰が話すかより、子どもがその言葉を一度でも受け取っているかどうかです。
最後に
からだの権利教育について書きましたが、これは当該高校だけがすれば良いというわけではありません。加害した子が通っていた保育園・小学校・中学校で、繰り返してからだの権利について語っていたでしょうか。当該校だけの責任ではなく、その前段階でもちゃんと伝えておくべきことです。
僕は普段、自治体や学校に子どもの相談の仕組みを届ける仕事をしています。日々、子どもたちが打ち明けてくる言葉に触れていて感じるのは、自分を大事にすること、そして相手を大事にすることを、まだ誰からも教わっていない子が本当に多いなということです。
「生命(いのち)の安全教育」は、制度としては全国で実施することになっています。でも子どもたちと接していると、届いている量が足りていない、という感触が拭えません。教材が悪いのだとは思いません。一度きりの講話で終わったり、他の内容に押し出されたりして、積み上がっていかないのではないでしょうか。
子どもが、自分のからだは自分のものだと信じられる学校を、全国の教育現場のみなさんと一緒に作れたら、と思います。
【追記】学校での講演・臨時授業をお引き受けしています
この記事の内容にあるようなことを、子どもたちや先生方に直接お話しする機会をいただければ、喜んでお伺いします。
子ども向けの臨時授業
からだの権利、プライベートゾーン、境界線と同意、そして「見る」と「記録する」の違い。撮ることも拡散することも、なぜ人を傷つけるのか。低学年から高校まで、学年に合わせて言葉を変えてお話しします。文部科学省「生命(いのち)の安全教育」の教材に沿った構成にすることもできます。1コマ(45〜50分)から、学年集会の形でも。
教職員研修
盗撮防止の仕組み化(校内点検の設計、更衣環境の整備、学習用端末の管理)と、発覚したときの対応手順。からだの権利をどう伝えるか、という授業設計の話まで。半日研修から、職員会議のあとの30分でも。
いずれも、公立・私立を問いません。教育委員会単位でのご相談も歓迎します。お声がけはつながりAIお問い合わせフォームからお願いします。
参考
-
私立高で女子生徒の着替え盗撮か 男子生徒複数が画像共有、名古屋(共同通信、2026年8月23日)
-
女子更衣室で生徒が盗撮、共有 愛知の私立高校、学習用端末で(共同通信、2025年12月)
-
同級生らを盗撮、中高生摘発550人 4割は校内で発生(共同通信、2025年7月)
-
「県立学校における盗撮防止等ガイドライン」(埼玉県、2025年9月)/同じひな形による川越市・草加市・越谷市の各ガイドライン