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【映画評】全埼玉が泣いた!「SRサイタマノラッパー」

2010年最高のインディーズ映画。

※当エントリーにはネタバレ要素が含まれています


埼玉県の奥地フクヤ(深谷がモデル)。国道とコンビニとスーパーとブロッコリー畑しかない町で、ラップのライブをやろう、というフリーターたちの物語。
一見、「ウォーターボーイズ」的な(それはそのまま「スイングガールズ」や「とめはねっ!」的なことを意味する)、できない若者たちがマイナー芸術・スポーツに出会い、一致団結して頑張って成功していく、といういわゆる「マイナースポーツもの」を連想させる。しかしSR(サイタマノラッパー)はそれを確信犯的に裏切る。
まず、ウォーターボーイズものは妻夫木くんや若手俳優がいて、見るだけで楽しくキラキラしている。例え妻夫木くんがうだうだしていても、イケメンはイケメンだ。見ているだけで楽しい。
しかしSRの主人公は、大柄なニートを演ずる、全く無名な俳優だ。作品中にAV女優である、みひろ以外、一切有名俳優が出ていない。絵としては全く見ていて楽しくない。なんというか、「これは映画である」と切り離して見れなくさせられてしまう。ある意味、現実をデジカメで撮って見せられているような、痛々しさがある。現在埼玉県民である自分は、胸を針で突かれる思いだ。
痛々しさ、と書いた。これは本作を貫く大切なコンセプトだ。SRはのっけから痛々しい。消費者金融とパチンコ屋の無限サイクルの国道は、アメリカのルート66の抜けるような青空と地平線とは違う。
若者の姿を見せてほしい、と呼ばれて行ったら公民館での市民の集いで、パフォーマンスの後は、質疑応答(笑)
教育委員会の人から「出身中学と高校は?」と聞かれて「西校です」等とのやり取りを延々とさせられる。
しかも特に努力らしい努力をするわけでもなく、ライブの話はうやむやになり、空中分解していく。(努力が報われるウォーターボーイズ的大団円を、意識的に避けている。「そんなわけねぇYO!」と。)何一つイケている要素が出て来ない。
更に決定的なのは、そのラップだ。
そもそもヒップホップ自体、スラム街のアフリカン・アメリカン等の社会的に虐げられた人々から生まれた文化で、歌詞の内容も貧困や犯罪を題材に取ったものが多く、社会に対する鬱積した想いが、歌詞の鋭さをもたらしていく。
けれど、埼玉のニートやおっぱいパブのバイトや農家の息子に、そうした社会的抑圧も無ければ、したがって社会へのプロテストもない。ゆえに歌詞(リリック)を新聞の切り抜きから探してこなくてはならず、政治や国際関係等、自分(埼玉)から遊離したテーマに、恰好だけプロテストして見せることになる。
痛々しい。憧れのアメリカから表層だけ借りてきて、その土壌も全くない土地においてマネごとをしてみせる。これほどまでの痛々しさをこれほどまで真摯に描くインディーズ映画に、ついぞ出会ったことがない。
しかし何だろう、この痛々しさは。サイタマノラッパーによって表象されているのは、実は我々自体なのではないか。我々自身の痛々しさではないのか。
外国からの借り物の意匠をかぶってみて、イケてるようになろうとし、しかし自分達の文化の源泉たる国土は、「国道20号線」化させる。昔ながらの町並みと顔の見える個店はワイプアウトされ、消費者金融とパチンコ屋だらけの、どこで見ても同じ風景になる。土建屋バラマキ政策で、どこの自治体にもモダン建築が土地の文脈と関係なくおっ立てられる。(多くは公民館か市役所。)コンビニとチェーン店があれば便利で、しかし便利なだけでスカスカだ。
全てが借り物で、しかし街角で殺し合いがあったり、今すぐ飢え死にしなければならないほどではない。微温的な幸福。どこにも行けないようで、でも何処かに行きたい。でも「何処か」なんてない、ということもうすうす分かっている。
(東京に行った憧れの女の子がAV女優になる、という挿話もそれを表していよう。)
そんな日本において、我々は何をライムに乗せて発すれば良いのか。リリックに何を語らせたいのか。フロウによってどこに行けば良いのか。
その答えはラストシーンに隠喩的に示されている。
これまで中身も含めて全て借り物だった主人公のスタイル。けれど初めて主人公は「借り物のラップによって」、そして「本当の言葉」をラーメン屋で歌い始める。
如何に自分がイケてなかろうと、埼玉がイケてなかろうと、日本がイケてなかろうと、俺は歌うんだ。むしろイケてない自分、イケてない自分の、ここ、この半径1メートルから、(バカげたことと分かりつつ)世界に対し歌うんだ、と決意を込めて。
不覚にも涙した。
超低予算のインディーズ映画、恐るべし。そしてこの映画にこそ、我々イケてない日本人のソウルがある。

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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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