駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

【書評】『職場学習』を読んで社員に謝りたい気持ちになりました

上司だけに留まらず、すべての職場にいる人に読んでほしいです。
なぜなら人を育てるのは、上司だけではない、という事実が、この本で立証されたから。

職場学習論―仕事の学びを科学する
職場学習論―仕事の学びを科学する 中原 淳

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教育学と経営学を繋げる、人材育成界のスター、中原淳氏の新著。
僕はこの本を読み、これまで自分がやってきた人材育成手法が全くの間違いであったことを痛感しました。
そんな大げさな、と思われるかも知れません。いや、本気です。本気と書いてマジです。
僕は、これまで社員を育成しようと、
①まず社員を育成するのは経営者(上司)たる自分だと認識し
②社員に業務のやり方を一生懸命教え
③基本的には、育成を評価等で仕組み化していき
④最終的には経営者の手を離れた自律型人間として回っていく
ということをやっていたように思います。
だがしかし。
①まず社員を育成するのは経営者(上司)たる自分だと認識
から違うのでありました。
実は、個人の能力向上には、上司からの働きかけだけでなく、上位者(先輩)・同僚からの働きかけを重要で、時には上司以上に重要だ、というのです。
また、
②社員に業務のやり方を一生懸命教え
ていた自分ですが、衝撃的な事実を知ります。
まず本書では、職場において個人が他者から受けるエンパワーメントを「支援」とし、3つの支援が存在すると言います。
(1)業務支援・・・業務のやり方を教える
(2)内省支援・・・なぜそうなったのか、考えさせる
(3)精神支援・・・励ましや安心を与える
僕がやっていたのは、もっぱら(1)業務支援 でした。できないことを、できるようにさせる、と。世の中の大多数の上司も業務支援を行っているそうです。
ですが、調査データでは、「上司の行っている業務支援は、個人の能力向上に結びついていない」ということが明らかに。
むしろ「上司の精神支援が、個人の能力向上に結び付いている」といいます。
オーマイゴッド。なんていう皮肉。自分は今まで何をしていたのでしょうか。
(実は大多数の上司において「精神支援」は最もしていない支援だそうです。)
更に個人の能力向上には、
・上位者(先輩)の内省支援
・同僚・同期の内省支援と業務支援
が大きな影響を与えているのだと言います。
自分だけで人を育てていると思ったら、大間違いだったわけです。
更に自分は
③基本的には、育成等で仕組み化していく
ということをしていたのですが、これも、実は仕組みの下には「職場内ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」がないと、仕組みは回らないのだよ!!ということが、本書で喝破されています。
ソーシャルキャピタルは、パットナムで有名ですが、要は人々の基本的な信頼や、互酬性(御互いに親切にしあう習慣)の束です。
パットナムはイタリアの各地方政府のパフォーマンスを調べていて、同じような民主的制度を導入していても、政治の良しあしや経済発展の有無に大きな差がでることに着目しました。そして、その違いは「ソーシャルキャピタル」の多寡によって決まる、ということを見抜いたのです。
つまり、積極的に選挙に行ったり、地元で市民たちが積極的にPTAやボランティアサークル、自治会に関わったり、家族や地元の人たちを信頼していたりする地域の方が、政治的にも経済的にも発展するんだ、ということですね。こうしたお金や数字では換算できない、見えない資本が、実は経済にも非常に効いてくるんだ、というわけです。(だから「新しい公共」が重要なんですけれども。)
いろんな法律や制度つくっても、結局ソーシャルキャピタルがなけりゃあ、うまく行かんのです。今の日本です。どんなに良い制度作っても、運用す公務員がだめで、利用する国民がモンスターだったら、回らないわけです。
さて、そのソーシャルキャピタルが、実は職場にも効いてくるんだ!!ということを本書は言うわけです。
いや、「やられたっ!!」と僕は京浜東北線の中で叫びました。
自分は日本のソーシャルキャピタルの増強に日々汗する仕事をしながらも、自分の職場のソーシャルキャピタルは高めてきただろうか、と。就業規則をちゃんとして、色々なルールは作って、せっせと組織を創ってきたけれども、ソーシャルキャピタルという基礎なきところに、制度の大聖堂は造れるのか、と。
痛たたたたた、です。
④最終的には経営者の手を離れて自律的に回っていく
ということが理想であっても、それは「放置」を意味するのではなく、人として信頼に基づいた精神支援をきちんと行っていく、ということなんだろうな、と思いなおしたわけです。
最後に、本論とは関係ないところで、僕は泣きました。学術書で泣いたのは、初めてかもしれません。
著者は謝辞において言います。
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息子は、その天真爛漫な笑顔で、疲れた筆者を慰めてくれた。
(中略)
・・・僕は君の「未来」を思う。
君が大きくなる頃、この国の企業や組織はどうなっているのだろうか。
君が勤務する職場は、どのようになっているのだろうか。
君は、君自身を成長させてくれる素敵な他者、ともに働き汗を流せる
仲間に、何人巡り会えることができるだろうか。
そんなことをひそかに思いながら、今は、筆をおこう。
きっと「未来」は明るい。否、「明るくしなければならない」。
私たちの後に続く世代のために、我々の力で、それを明るく照らし出す
他はないのである。
—————
そうだ、僕たちが子どもたちの明るい未来を、「今」努力して創るんだ。
職場の他者を支援し、そこにいる人々が成長し、支援を通じて自らも成長し、組織全体を伸ばしていくことで。
未来を、社会を良くしていくのは、我々個人が今日よりも明日良くなっていくことで、実現される。
その道筋を照らし出してくれる本書と出会え、僕は衝撃を受けたとともに、同時に幸福を抱き締めました。

職場学習論―仕事の学びを科学する
職場学習論―仕事の学びを科学する 中原 淳

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