駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

保育園という洗脳装置


うちの社員が「保育所からもらった」とビラをくれました。

豊島区公立保育園職員労働組合チラシ.jpg

某区の公務員労働組合が、子ども子育て新システムという、政府の改革案に反対する「勉強会」を行うというお知らせです。
子ども子育て新システムとは、簡単にいうと
・都市部では圧倒的に足りない保育所の供給量を高めるため、色々な主体(株式会社やNPO)に保育所を担ってもらおう
・保育のニーズも多様化しているから、病児保育や障害児保育、延長保育等多様な保育サービスにしよう
・そのために原資が必要だから、消費税の一部を活用しよう
・それに、参入を活性化するため、自治体の裁量を小さくして、一定の基準を満たせば、自由に保育所が創れるようにしよう(指定制)。でも質はチェックしないといけないから、情報公開の義務は課そう
・その他(幼保一体化・子育て支援を街ごとに協議する場を持とう等々)
という仕組みです。
一見すると、なぜこれに反対する団体がいるの?と思われるかと思います。
理由はいくつかの要素がからみ合っています。
まずひとつは、「色々な団体が参入してきて、供給量が多くなる」と困るからです。そうなると自分の園の近くに、新しい園ができてしまって、ひょっとして向こうの園の方が人気になってしまったら、収入が減ってしまいかねません。
また、自治体が運営している保育園(こういうのを公立認可園といいます)は、民間団体(株式会社やNPO等)が参入してきて、立派に運営できる、と分かるようになると「そもそも保育園の職員が公務員である必要あるの?」と言われてしまいます。(参考:鈴木亘教授によると23区の公立認可園保育の平均年収は800万円で、園長の年収は1200万円
もし市長さんが「そうだよね。じゃあ公立認可園を、徐々に民間の団体にお任せしよう」と言い出すと一大事です。自分達の公務員という身分は失われてしまい、年齢とともに高くなる給料は、民間並みの水準に抑えられてしまいます
こうした理由があり、既存の認可保育園の中には、子ども子育て新システムに断固反対して、潰してしまおうという動きが出てきました。そのためには、「国民(親御さん達)が反対している!」と言うことを盾に、政府に働きかけるしかありません。そこで、こうしたビラを撒き、勉強会という名の反対集会に親御さんを呼んで、反対意見に染まってもらいます。極めつけは、子どもを通わせている親御さんたちに署名を書いてもらい、それを保育団体で集計して数万人分の署名にし、政府に圧力をかける材料として使っています。
こうした「署名作戦」は、昔から行われてきており、こうした圧力によって、なかなか保育政策の改革ができずにきた、という歴史を持っています。
公務員労働組合が署名活動を行なって、保育の改革案に反対する。これは立派な組織的な政治活動です。日本には言論の自由もあるので、政治活動自体は全く悪いことではありませんが、保育政策についてよく知らない親達に、非常に極端な意見を刷り込んで、関係性を盾にして署名を要求する、というのは正しい行為なのでしょうか?(そして自治体がそれを見て見ぬふりをすることも。)
親御さんは子どもを預けているので、一般的には立場としては弱いわけです。もし署名を断って先生から嫌われたら、子どもに影響があるのではないか、と思うと、なかなか断ることは躊躇われてしまいます。いつもお世話になっているし、名前を書くくらいなら、となってしまうのも人情です。そして署名を集めている保育士さん自身も上から言われたのでやっている、という人がほとんどで、この行為が何を意味するか、分かっていない人が大半です。
しかし、こうした「普通の良い人」達が行った行為が、政策立案をしている官僚たちにとっては明確に圧力を感じる行為であり、票を失いたくない政治家達をひよらせる力を持ちます。そうして、待機児童問題は解決されぬまま、数十年が過ぎていっているのです。
全国のお父さん、お母さん。保育園から署名を求められて、その政策についてよく分からなければ、「すいません、よく分からないので勉強してから署名させて下さい」と言う勇気を持ちましょう。あなたには自らの政治的信念に基づいて行動する権利があるのです。そして例え署名しなかったとしても、現場の保育士さんの多くはよく分からずやっているので、それによって嫌がらせを受けることはまずありません。
また、政府に圧力をかけている全国の保育団体の皆さん。皆さんが変化を怖れるのは分かりますが、政治的圧力を使ってそれを押しとどめようとするのではなく、「色んな園が増えても、選ばれるよう頑張って質を高めよう」という風に前向きに時間と知恵を使っていきましょう
更にマスメディアの皆さん。「政府を叩くのがジャーナリズムだ」という勘違いをやめて、政策論争の土台となる知識をきちんと提示しましょう。幼保一体化にしかスポットライトあてないで、そこしか報道しないのは勉強不足と言われても仕方がないです。そして労組のデモ参加している「市民」の声を拾ってきて「政府の方針に不安を持つお母さんもいるようです」って市民目線を偽装するのはやめましょう
最後に、子ども子育て新システムに反対し、潰すのに成功しそうな自民党の皆さん。新システムの議論は、福田内閣の『「子どもと家族を応援する日本」重点戦略』から始まっているんですよ。そして僕が参加した福田・麻生内閣の「社会保障国民会議」でも話されていたものです。今反対しているということは、全く政策論ではなく、倒閣したいがため、ですよね?皆さんの政治家になりたい、と思った根っこの良心に訴えかけたいと思います。子どものために、未来の日本のために、政争はひとまず置いといてもらえませんか?
願わくば、利権にまみれた「業界団体民主主義」から、自立した個人が自分なりに政策にコミットする「草の根民主主義」の国に、日本が一秒でも早く生まれ変わらんことを。



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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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