駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

子ども子育て新システムはどうなったのか


質問を受けることがあるので、簡易的な解説を行いたいと思います。


結論から言うと、8月10日の参議院での可決により、当初の「子ども子育て新システム」案は8割がた「通った」ということができるでしょう。
今回僕が特に待機児童問題解決の視点から注目していた、新システムの柱は以下のものでした。
1.これまでの認可制にかわり「指定制」
2.これまで20人以上でなければ保育所として認められなかったが、20人未満の保育所を公式に位置づける「小規模保育サービス」
まず1について言うと、新システムが目指していた「指定制」という名前はなくなったけれども、実質的に指定制に近い「認可制」になりました。これを僕は改正認可制、と暫定的に呼びます。
認可制と指定制の大きな違いは、自治体の裁量です。これまでは自治体の裁量で、基準を満たしていても、自治体の許可を受けなければ保育所の運営はできませんでした。ここに自治体の裁量が発生し、いくら事業者に参入意欲があっても、自治体が許可をしなければ開園ができず、自治体の非常に遅い意思決定スピードに、保育所の供給が大幅に依存することになりました。
それが待機児童問題の原因の一つでした。指定制では明確な外形基準さえ満たしていれば、自治体の許可無く保育園を開所できます。(介護事業所のような形ですね。)
そうすることで、自治体の意思決定のスピードと切り離して保育所の供給が可能になる、ということになります。
改正認可制は、上記のような指定制に近い形に変わっていく、ということになります。
また、2の小規模保育サービスです。
これは私が関わっていたことなので、公正でない記述になるかと思いますが、結果として「無傷」で通ることができました。20人以上でなければ認可されない、という合理性のないこれまでの仕組みに、自民・公明ともにさすがに賛成できなかったこと。また、おうち保育園を始めとしたモデル事業達がうまく回り、成果を出していたことを一部の保育に詳しい議員がよく知っていたことがスムースな通過の要因としてあげられるでしょう。
小規模保育は、「小規模認可保育」という新しいカテゴリーが生まれていくことになります。
さて、(私はそうは思いませんが)メディア的に新システムの看板だと認識されていた幼保一体化についてはどうなったのでしょうか。
結果として、非常におおざっぱに表現すると、①総合こども園という名前は削除され「認定こども園」で決定 ②幼保連携型というメインのカテゴリでは株式会社・NPOは排除 ③別に認定こども園になるのは義務じゃない という感じです。
野党としては、「総合こども園は潰した」と言うことができるし、与党としては「まあ中身の大半は無事なので、仕方がない」ということです。
私としては、こども園への転換義務がなくなり、株式会社やNPOの参入が阻まれた時点で、認定こども園の爆発的普及はなくなった、と見きりました。よって、待機児童問題の解決は、ひとえに小規模保育が担っていくことになるだろう、と予想しています。
さて、子ども子育て支援法は成立しましたが、法律案というのは骨格しか示していません。今後、省令や要綱で肉付けしていきます。また、そうした肉付けを「子ども子育て会議」という審議会によって行なっていくので、現場にとってはこれからが勝負だ、とも言えます。
というのも、政策の使い勝手は細部に宿るためです。例えば「保育士がこれを担う」と「保育士等がこれを担う」とでは、天と地ほどその内容が違います。前者は保育士に限定していますが、後者は等がついているので、保育士でも看護師でも幼稚園教諭でも良いのです。
また、子ども子育て支援法では以下の問題は重要な割に、細かく詰められていません。ここは要注意です。
情報開示義務について。保育の質を上げるためには、事故情報を開示、第三者機関による調査を経て、業界全体で教訓化させていく必要があります。
・病児・病後児保育政策について。既存の施設型病児保育はすでに限界です。病児保育バウチャーのような制度を創設し、非施設型病児保育のスキームを補完させなくてはいけません。
・居宅訪問型保育については、制度の大枠のみの提示に留まっています。これが例えば「ベビーシッターバウチャー」のような仕組みにできれば、子育て家庭においては非常に助かる仕組みになります。ファミリーサポートセンターが十分機能しているとは言いがたい現状において、既存のベビーシッター企業の利用にも補助が出れば、通常の働く家庭だけでなく、障がい児の養育家庭にも就労の機会が生まれてきます。
というように、制度の詳細設計の際には更に現場からのアドボカシー(政策提言)が重要となっていきます。ですので、今後も引き続き、日本の保育政策改革に具体的な提言をしていくべく、頑張って参りたいと思います。
*参考
・参議院議案審議情報



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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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