駒崎 弘樹 公式ブログ ライフ・子育て

なぜ僕達は、家庭より仕事を優先してしまうのだろうか


名著「イノベーションのジレンマ」の著者、経営学のスター、クレイトン・クリステンセン氏は、新作「イノベーション・オブ・ライフ」で、経営理論を個人の生活に拡張し、こう語ります。

わたしたちはプライベートな時間や労力、能力、財力といった資源をもっていて、これを使ってそれぞれの人生でいくつもの「事業」を育てていく。たとえば伴侶や恋人と実り多い関係を築く、立派な子どもを育てる、キャリアで成功する、教会や地域社会に貢献するといったことだ。残念ながら資源には限りがあるため、それぞれの事業は資源を得ようとして競い合う。つまり、わたしたちも企業とまったく同じ問題を抱えているのだ。それぞれの事業を追求するのに、どの資源をどれだけ配分すべきだろう?
(中略)
達成動機の高い人たちが陥りやすい危険は、いますぐ目に見える成果を生む活動に、無意識のうちに資源を配分してしまうことだ。これは、キャリアであることが多い。
(中略)
(私生活が破綻している多くのハーバード・ビジネス・スクールの)同級生たちは昇進や昇給、ボーナスなどの見返りがいますぐ得られるものを優先し、立派な子どもを育てるといった、長い間手をかける必要があるもの、何十年も経たないと見返りが得られないものをおろそかにした。こうした即時的な見返りを手にすると、自分と家族の派手なライフスタイルを賄うのに使った。もっとよい車、もっとよい家、もっとよい休暇旅行。だが困ったことに、ライフスタイルの要求は、資源配分プロセスをたちまち固定化してしまう。「昇進を逃してしまうから仕事にかける時間を減らすわけにはいかない。どうしても昇進しなくては・・・」
(中略)
家族との関係に時間や労力を費やしても、出世コースを歩むときのように、すぐに達成感が得られるわけではない。伴侶との関係をなおざりにしても、日々の生活では何かが崩壊していくようには感じられない。夜になって家に帰れば、伴侶はちゃんとそこにいる。それに子どもたちときたら、悪さをする方法を次から次へと考えだす。腰に両手をあてて「立派な子ども育ったな」と満足感に浸れるのは、20年も先のことだ。
(引用終:()内補足及び太字はブログ主)

つまり、
1.すぐに成果が出る短期的最善(多くは仕事)を追求し、長期的最善(家庭も含む人生の全体)を犠牲にするジレンマ
2.家族を喜ばせようと生活水準を上げると、生活水準を上げるために長時間労働しなくてはならず家族は喜ばないというジレンマ

の2つのジレンマがあるということです。
痛みとともに合意できる内容ではないでしょうか。著者は多くのとびきり優秀で誠実な同級生達の多くが、破綻した人生を送り、時に犯罪を犯してしまった(エンロンCEOは彼の同級生だった)ことに強く胸を痛めたことを、本書の冒頭で語っています。
さて、では如何にしてこのジレンマから抜け出せるのでしょうか。
著者は直接的には語ってはいませんが、僕は以下のような脱出口があると思っています。
1のジレンマに対しては、「長期的最善への投資ができる仕組み」を導入すること。
2のジレンマに対しては、「優先順位のチーム共有」を行うこと。
1つ目の「長期的最善への投資ができる仕組み」は、放っておくと仕事に資源が短期的に割かれ続ける(あるいは喜んで割いてしまう)のを防ぐルールや制度です。
例えば「家に帰ったら仕事の携帯に出ない」というマイルール。子どもの運動会や誕生日には絶対に仕事を入れないという主義や、その日を1年前から職場のスケジュールソフトで押さえておく習慣等など。
僕は「原則18時に帰る」というルールを自分に課していて、仕事の関係各所でもことあるごとに言っているので夜の予定がほとんど入りません。ただ、これは「仕組み」として割と本気で導入しているからで、「そういう意識を持とう」とかのレベルだと、たいがい失敗しがちです。
2つ目の「優先順位のチーム共有」は、自分たちの生活にとって優先順位が高いものは何なのか、というのをチーム(家族)で対話して共有することです。
例えば「妻はマイホームがほしいって言ってたし、俺が頑張ってバンバン仕事して稼いでプレゼントしてやろう」と意気込む前に、妻が本当に望んでいるもの、についてゆっくり話しあってみることもできるでしょう。
そうした対話の中で、自ずと優先順位が決められてくるはずです。ちなみに我が家は、60歳くらいまで安い貸家で、基本的には生活水準を上げずに、その分時間を投資しよう、ということで優先順位設定しました。
本書は、こうした人生の様々な局面で陥るジレンマに対し、経営学のフレームワークを使ってヒントを与えてくれているのですが、著者自身が、自分の父親の命を奪ったものと似た癌にかかっているという、壮絶な状況の中で搾り出された言葉がゆえに、一層僕達の胸に深い問いかけを響かせます。
“How will you measure your life?”
「あなたの人生を評価するものさしは何か?」(本書の原題)と。
※テーマに関連する参考図書




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