駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

幼児教育無償化は「良いこと」か?


政府が3〜5歳の幼稚園・保育所等の無償化を検討するそうです。
多くの人は「結構なことだ」と思うでしょう。タダで子どもが幼稚園や保育所に通えるに、越したことはありません。さて、本当でしょうか。

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私は、2児の父であり、保育事業者であり、そして「子どもにもっと社会的投資を」と訴え続けてきた立場です。しかしその立場を持ってしても、この政策は支持できません。
◎予算が吹っ飛ぶ
なぜでしょうか。まず予算を把握してみましょう。報道によると、3〜5歳の保育料の無償化にかかるコストは7900億円。5歳だけにしぼっても2700億円が必要です。
翻って、現在想定されている保育予算を見てみましょう。昨年度国会を通過した「子ども子育て関連三法」。幼保一元化施設である「認定こども園」、待機児童解消の軸となる小規模保育、また児童養護施設への増員等、様々な施策を実現しようという意欲的な新法です。
この「子ども子育て関連三法」の財源の中心は、消費税増税分です。消費税は1%上げると2.5兆増収するので、5%増税で最終的に12.5兆増収します。そのうちの7000億円を子ども分野に追加投入することが決まりました。そして消費税以外の所から3000億円を調達し、計1兆円が「子ども子育て関連三法」における各種事業に使われます。
子ども子育て関連三法の眼目は、待機児童問題の解決。潜在待機児童300万人とも言われますが、この子どもたちにすべからく保育サービスを提供できるように、認定こども園や小規模保育所などを大量に増設します。また、延長保育や学童保育、病児保育や子育て支援広場等、幅広く多様化した保育・子育てニーズをすくい上げる事業も展開していきます。
さて、先ほどの3〜5歳児の無償化にかかる費用を振り返りましょう。約8000億円です。1兆円で待機児童を解消したり、保育全般に渡って色々やろうよ、ということになっていたにも関わらず、そのうち8000億円を使ったら、もちろん待機児童対策費用など吹っ飛びます。その他の子育て支援サービスもほとんどやれる余裕はなくなります。
これが望ましい予算の使い方でしょうか?
◎5歳時に限っても大きすぎる
では、5歳時に限って2700億円を投じる、というのはどうでしょうか。残念ながらそれでも多すぎです。
2700億円というのはどういう額でしょうか。
以下の数字を見ると分かりやすいです。
・病児病後児保育に投じられた公費(H21年): 約95億円 (出典:厚労省 http://p.tl/lrQN-)
・障害児保育に投じられた公費(H14年): 約93億円(出典:内閣府 http://p.tl/-BmJ-)
・学童保育に投じられた公費(H23年):約307億円(出典:全国学童保育連絡協議会 http://p.tl/OfuT-)
病児保育も学童保育も非常に脆弱な社会インフラとして、子育てしている方々は特に実感しているのではないでしょうか。また障害児保育のお寒い現状には、当事者の方々は大変苦労されています。
2700億円というのは、ざっくり言うと、病児保育と学童保育と障害児保育を今の5倍充実させられる額です。5倍充実させれば、この分野ではほぼ十分な質量を確保できると言って良いでしょう。
確かに無償化して助かる人も多いでしょう。でも、一律無償にする必要はあるでしょうか?そして政策の優先順位は、それだけの公費を投入するほど高いのでしょうか?
◎ではどうしたら良いか
僕から安倍政権への提案は、以下のものです。
1.幼児教育無償化の看板は取り下げられないだろうから、以下の制限をかけましょう
 ・5歳児に限定し
 ・所得300万円以下の世帯
(ただし子どもが2人以上いる家庭は所得制限に段階を設ける)に限る
 
2.2050年には人口の約4割が高齢者になる、超高齢社会を財政的に持続可能にするためには、労働人口減少をなるべくゆるやかにさせることです。その決め手は女性になります。ゆえに、政策優先順位は待機児童問題の解決です。1兆円のうち少なくとも6000億円(約40万人分の定員増)は保育所を中心とした保育サービスの増強に投資するべきです。
3.また、保育所が必要十分になっても、病児保育や延長保育、障害児保育等のインフラが揃わなければ、ますます多様化する働き方を支えることはできません。少なくとも今の2倍の予算をかけるべきです。
4.学童保育は「小1の壁」と呼ばれ、保育所に比べて預かり時間が短く、質も全く十分な状態ではありません。指導員一人あたりの子どもの数は多く、学習補助の役割もほとんどありません。低学年が小学校で過ごす時間が1100時間なのに対し、学童で過ごす時間は1600時間にもなるにも関わらず。
よって高所得者層は学習塾等が運営する民間学童に流入していますが、それは小学校時点で所得の差を学力の差に繋げることになります。公立学童保育により公的補助(それも利用者を補助するバウチャー形式)を行って質を改善し、早期からの人材育成と学力の底上げを行うべきです。
以上、現場からの問題提起でした。審議会の有識者の皆さんが、どうかコスト感覚を持って議論にあたって下さることを、心より祈っております。
—以下読売オンラインより記事の引用–
 政府は、2013年度から幼児教育無償化に向けた本格的な検討をスタートする。
 有識者会議を設置し、時期や対象施設、予算の確保策などの具体案を同年度中にまとめる方針だ。
 無償化は自民、公明両党の連立政権合意書にも盛り込まれ、子育て世帯の負担を軽減し、少子化対策につなげる狙いがある。
 有識者会議は、3~5歳児が通う幼稚園、保育所、認定こども園の無償化を軸に検討を進める見通しだ。この場合、必要となる予算は年7900億円程度と見積もられている。政府と自治体の負担割合も含め、予算の確保策が最大の焦点となる。政府・与党内には、5歳児に関わる教育のみ無償化する案も出ているが、この場合でも年2700億円程度の予算が必要だ。文部科学省は、13年度予算の概算要求に会議費用として4300万円を盛り込んだ。
(2013年1月15日03時11分 読売新聞)



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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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