駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

横浜市待機児童ゼロの次にくるもの

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【ワースト1から待機児童ゼロへ】
横浜市が待機児童ゼロを実現しました。
http://p.tl/lFXG-
 
これには、「保留児童がいるので完全にゼロとは言えない」等の批判が出ていますが、3年前にワースト1という状況だったことから考えると、まずはあっぱれと評価したいと思います。
 
では、これからどうなるでしょうか。このまま待機児童ゼロが続き、めでたしめでたし、となるか。
 
【ポスト待機児童ゼロ問題】
実はそうとも言えません。全国の顕在待機児童2万〜5万に対し、85万人もの潜在待機児童がいます。これは何かというと、「そもそも諦めて、保育所申し込みをしていない」「近くに保育園があったら働きに出たい」等の人達は待機児童リストにはカウントされないため、その人達を計算に入れると膨らむ、ということです。
 
今後は、「横浜市にいる潜在待機児童の顕在化対応」が発生してくるでしょう。「保育園入れることだし、働きに出てみようか」という人達ですね。
 
更に、「『横浜市外から流入してくる層』への対応」が生まれてきます。「世田谷区じゃ子どもを産んでも働けない。横浜にいっちょ引っ越そうか」という方々です。
 
ということは、待機児童対策は引き続き行わなくてはならない、ということになるわけです。
 
ただ、自治体関係者が最も気をつけなくてはいけないのが「これまでとは違う闘い」を闘うことになる、ということです。
 
【課題の性質変化】
これまでの闘いは「とにかく数が足りないから、箱(保育所)バンバンつくっていこうぜ」というものでした。
ゆえに、バンバンつくってくれる株式会社に門戸を開き、財源を用意し、とにかく認可保育所の量を増やそう、というのが中心政策になりました。戦争に例えると、平原で大軍に相対しているようなケースですね。つまりは敵の大軍に対し、こちらも物量で圧倒するために大軍を投入し、後はぶつかり合うのみ、というイメージ。
 
今後は「各地でちょこちょこ生まれるニーズ」に対応していく闘いです。◎◎町で6人の待機児、▲▲町で8人、というような。いわばゲリラ戦です。
 
そうした「別の闘い」を自治体が行うためには、何が必要でしょうか。
政策ツールは2つです。
 
①小規模保育所と②二階建て補助制度です。
 
【小規模保育】
定員数が6人〜19人の小規模保育は2015年からは国からも補助が出て、「小規模認可保育所」という枠組みで実施することが可能となりますが、今年と来年は自治体単独事業となります。この2年間は財政的に心もとないですが、2年後を見据えて、きちんと整備していくべきです。
ゲリラ的に各地で発生するニーズに対しては、機動力があり少人数の小規模保育が最も適しているのですから。
 
【二階建て補助制度】
待機児童がゼロになるということは、それに伴って定員割れ(空き定員)が発生するということです。保育所の全体キャパシティが5万で、5万人ぴったりで埋まる、ということはあり得ません。
それは保育所というものが立地依存するからです。どんなに枠があっても、自転車で30分かかるところは利用できないからです。現に横浜市の2013年4月1日現在の定員割れ(空き定員)数は2096人もあるのです。
 
不可避な定員割れですが、実は現在の認可保育所や準認可保育所(横浜市でいうと横浜保育室)の補助制度は基本的にはほぼ「成果補助」(子ども1人を受け入れると○万円)のみになっています。(※)
 
そうすると、定員割れすればするほど、経営が成り立たなくなる、というモデルです。
 
100〜150人定員の大規模認可保育所のようなところにおいて、5人の定員割れは大きな財務的なダメージはありません。しかし定員20人の横浜保育室では相当の打撃ですし、定員9人の小規模保育では全く成り立たなくなります。
 
そのためには、「基礎補助」に加えて、子ども1人あたりの成果補助、という二階建ての補助制度が必要になってきます。
 
「保育所に誰でもいつでも入れる」という社会システムのためには、保育システム全体である程度の余裕を持たねばならず、それが定員割れ(空き定員)なので、空き定員をヘッジしておく仕組みを織り込まねばならないのです。
 
【まとめ】
簡単にまとめます。待機児童ゼロの後にも闘いは続きます。しかし、闘い方が違います。そのためには小規模保育と二階建て補助という2つの政策ツールを必要とするので、各自治体は待機児童ゼロに取り組みながらも、その後の準備を怠らずに鋭意努力して頂けたらと思います。
 
 
※注)横浜保育室は細かくは若干基礎補助的なものがありますが、大部分は成果補助です。
 
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