駒崎 弘樹 公式ブログ 事業ニュース

【ルポ】名古屋の着ぐるみ集団にまぎれてみた!ー全国こども福祉センター×駒崎弘樹ー

2017年に文京区でスタートしたこども宅食。経済的に厳しい子育て世帯に、定期的に食品を配送しながら、家庭の困りごとを発見する「出張(でば)っていく福祉」(=アウトリーチ)を目指しています。

一方、名古屋にも「アウトリーチ」を目的に、2012年から、駅前で着ぐるみを着て若者に声をかける「全国こども福祉センター」という団体があります。

今回はアウトリーチの先駆者である同センターの活動に参加しました

 
全国こども福祉センターについて
2012年から名古屋を拠点に子どもたちよる、子どもたちのためのアウトリーチ活動を行う。着ぐるみを使った駅前での街頭募金・声かけのほか、スポーツイベントなどを主催。支援が必要(もしくは必要となる手前の状況)だが、その情報が届いていない子ども・若者との接点を多く持つ。
▼同センター創設者の荒井和樹さんと駒崎の対談はこちらから
 
 
*アウトリーチとは
「支援が必要にもかかわらず、それを望まない、受けられない対象者に対し、支援(情報)を届ける手法(スキル)」(全国こども福祉センターHPより)
 

全国こども福祉センターのアウトリーチは「着ぐるみ」!?

とある土曜日の18時過ぎ、名古屋の全国こども福祉センター事務所からみんなで出発です!

メンバーは理事の荒井さん以外は10代~20代前半の若者です。

5分くらいで駅前の広場に到着。

人混みの中、好きなキャラクターを選んで自由に装着します。

荒井さんはガチャピン。

僕は……

「名古屋でミニオン!」

とりあえず、先に活動を始めていたメンバーに混じってみます。

悲壮感ゼロの街頭募金という雰囲気。みんな笑顔で和気あいあい。

通りがかりの若者と会話している!
まさにアウトリーチ!

「ぼく、一応インフルエンサーなんだよ」とTwitterを見せる(笑)

深夜バスで来たという16歳の女の子。
お父さんが39歳と聞いて地味にショックを隠せない僕40歳(笑)

女の子は30分ほどみんなと談笑し、Twitterを交換して、「楽しかったー」と言って去っていきました。

また会えるかもしれないし、会えないかもしれない。

福祉の専門家でない子どもたちが、自分と同世代の子どもたちに声をかける。

……これが「アウトリーチ」?

全国こども福祉センター創設者の荒井さんに、そのポイントを聞きました。

 

競合の多い駅前……若者に選ばれないといけない

荒井和樹
全国こども福祉センター創設者、保育士・ソーシャルワーカー(社会福祉士)。
元児童養護施設職員。全国こども福祉センターを立ち上げ。近著に『子ども若者が創るアウトリーチ-支援を前提としない新しい子ども家庭福祉』(アイ・エスエヌ)。
 

駒崎:よく言う「アウトリーチ」って、福祉の専門家が本人に課題を聞いて、その課題に合った社会資源につなげようとする。でも、荒井さんたちの面白いところは、本人と近い年齢の人が、課題を聞かずに軽い感じで「友だち」になろうとしている点。
具体的にどんな声かけをしているのか、教えてもらえますか?

荒井:僕たちは課題解決を前提としないので、個人の主観で「この人と仲良くなりたい」「話してみたい」という動機だけで声をかけるんです。とにかく若い子たちに声をかけていく。声をかける内容としては「どこ行くの?」とか

駒崎:なるほど、「どこ行くの?」から入って……

荒井:手を振ったり、言語による声かけにこだわらないところも、うちの団体の工夫かなと思います。

荒井:着ぐるみもその1つです。着ぐるみを着ていると、向こうから声をかけてくれたり、気になってるっていう姿を見せてくれる。そうしたら「おもしろいでしょ?この服」「ガチャピンだよ」「ピカチュウだよ」とか……そういう他愛もない話から、学校の制服を着てたら「高校生なの?」って聞いていく。

駒崎:そこから、どうやって活動に誘うんですか?

荒井:その場では「またね~」みたいな形でいったんお別れすることが多いですね。2週間後にまた会えるかもしれないから。最初から仲間になることを求めすぎてしまうと、相手にとってはコワく感じてしまうので。

駒崎:それでまた会えたら「また会ったね」

荒井:そうですね。人って2回会うと、信頼関係が構築されやすい。2回目に来た人には積極的に団体の活動に誘ったりもしますね。

駒崎:で、その人が「おもしろそう」と興味を持ってくれたら?

荒井:よく使うのが「一緒に着ぐるみ着ようよ」作戦(笑)

駒崎:そういう意味でもいいですね、着ぐるみって(笑)

荒井:そうですね。お互いにやわらかい気持ちになる。露出も少ないので、見た目関係なくチャレンジできますし。実は、風俗業界も着ぐるみを着てアウトリーチしてるんですよね(笑)

駒崎:風俗業界のアウトリーチスキルは高そうですね。

荒井:はい、彼らはあきらめないですね。

駒崎:駅前では彼らとの戦いになるわけですね。風俗業界に勝るアウトリーチを、福祉業界はやらなきゃいけないと。

荒井:学ぶべきことは他業界にあると思います。

* * * * *

子どもたちと自然な接点を持ち、ゆるやかにつながる。

ちょっとさびしくなったとき、疲れたなぁという時に、土曜日の駅前に行けば、おしゃべりしてくれる「友だち」がいる。

名古屋の子どもたちにとって、彼らはそんな存在になっているのかもしれません。

駒崎が若いメンバーに話を聞きました。

滝澤ジェロム
大学生。9歳から18歳まで児童養護施設で暮らす。全国こども福祉センターには中学3年生から参加。
 

駒崎:滝澤さんは、参加してみて、どう変わりましたか?

滝澤:最初は「アウトリーチ」という言葉も理解していなくて、好奇心だけでした。それから、年上の「お兄さん」「お姉さん」からいろいろ教えてもらううちに「家族ってこんな感じなのかなぁ」と思うようになって。
今は大学で社会福祉を学んでるんですが、アウトリーチを授業で学ぶことはなくて、僕からしたらもう1つの大学みたいな感覚です。

駒崎:将来は社会福祉士と保育士になりたいんですよね。

滝澤:そうです。

駒崎:どんなソーシャルワーカーになりたいですか?

滝澤:僕は野球部だったんですが、野球で言えばピッチャーだけじゃなくてキャッチャーやサード、セカンドもやらなきゃいけない気がしています。
ソーシャルワーカーはオールラウンダーになる必要があると思うんですよね。いろいろな場所でやれるようになりたい。「虐待の専門は社会福祉士だから、それ以外の問題には対応できない」って言われたら、社会福祉士の意味ないじゃんと思ってます。

駒崎:すばらしい!

清水ゆり子
社会人1年目。全国こども福祉センターには大学3年生から参加。

 

駒崎:清水さんがこの活動に関わったきっかけを教えてもらえますか?

清水:大学生のときに、ふとボランティアをやってみたいなと思って、ここの募集を見て、なんかほかとちょっと違う…異色な感じがして…(笑)

駒崎:参加してみて、どんな変化がありましたか?

清水:私は、例えば「家にご飯がない」という子たちがいるってことに、あまり気づかずに生きてきて、なんとなくあるんだろうなと思いながら、すごくモヤモヤしてました。それが、ここに来たら、普通にそういう子たちがいるんだ、っていうことが分かって、特別なことでもないと思うようになりました。

駒崎:社会人になっても、この活動にも参加し続けているのはどうしてですか?

清水:ここがなくなってしまって、メンバーの子たちに会えなくなるっていうのが嫌だなという気持ちと、先輩ががんばって事務所を回すにはどうしたらよいかと話してたりするのを見ると、私も協力しようと思いました。

駒崎:仲間がいるから、っていうことですね。

清水:そうですね、それが大きいかなって思います。

 

* * * * *

 

20時になると、みんなで輪になり、振り返り。

ここで名残惜しそうな未成年のメンバーたちを成人メンバーが改札前まで送っていきました。

残ったメンバーは着ぐるみを担いで、事務所に戻り、ご飯タイムです。

代表の荒井さんはこの写真におさまらない位置の端っこに座ってました。全然エラそうな感じがしません。

駒崎:こういう若者たちの成長を見ていて、荒井さんはどういうお気持ちなんですか?

荒井:(照れながら)いや~僕は学生たちには嫌われてるかもしれないです(笑)。たとえば、僕が助成金には一切頼らないと決めたときの反発はすごかった。
でも「荒井がいなくなったら、助成金を取らずにどうやって回していくんだ」と真剣にメンバーたちが話し合ってくれて。誰か1人の大きな犠牲のもとで成り立つものではなく、みんながちょっとずつ持ち出して続けるっていうスタンスをつくっていってくれた。
長期的に見れば、メンバーがすごい自分たちで考えて運営してくれるようになったっていうのは感じますね。

駒崎:なるほどね。リーダーシップをシェアして、当事者意識を持ってもらったっていうことなんですね。

荒井:そうですね。今は本当の意味でメンバー自身が福祉を作っていく側になってきています。メンバーたちが取ってきたお金で、みんなで役割分担して、自分たちができること、自分たちが必要なものを見極め、獲得していくというスタンスに変わる最中です。

 

* * * * *

 

笑い声あふれる和やかな雰囲気のなか、事務所の壁を見ると、着ぐるみの洗濯の順番とか

事務所でやるべきことをメンバーたちで決めたボードがありました。

子どもたちによる、子どもたちのためのアウトリーチ活動を体験できた1日でした。

*このような活動をどうして行うようになったのか?

同センター創設者の荒井和樹さんと駒崎の対談にて、詳しく紹介しています。
→タピオカと着ぐるみを活用したアウトリーチ?~未来の福祉を考える~ー荒井和樹×駒崎弘樹ー

 

こども宅食でも、支援が届いていない・届きにくい親子と社会が自然につながり、親子が主体となって未来を切り開いていけるような状態を目指したいと考えています。

2017年の開始から3年で利用者は当初の4倍の約600世帯。2ヶ月に1回の配送とLINEやメールで親子とつながっています。

こども宅食の運営資金は文京区のふるさと納税を利用しています。活動を続け、多くのご家庭とつながり続けるため、ぜひ引き続きご支援をよろしくお願いします。

 

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