駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

「虐待児の施設入所停止」新しい社会的養育ビジョンの衝撃

特別養子縁組支援に携わる、NPO法人フローレンスの駒崎です。

社会的養護業界にとっては、「革命」と言っても良いニュースが飛び込んで来ました。

7月31日、「<厚労省方針>虐待児ら施設入所停止 里親委託75%目標」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170731-00000122-mai-soci

本記事ではこの「新しい社会的養育ビジョン」を簡単に解説します。

 

【ポイントは何か】

 60ページの資料になるので、筆者が特に大切だと思ったポイントを箇条書きで専門用語は言い換えて、ピックアップします。

・子どもを地域で支援するソーシャルワーク体制を創る

・中でも児童虐待に関しては、児童相談所の指導のもと、市区町村で集中的に高リスクな家庭を積極的に支援しにいくような体制を創る

・でも、親子を分離しなきゃいけないケースもある。これまでの児童相談所にある一時保護所は、むやみに長期滞在させたり、そこから学校に通えなかったり、いろんな問題があったので、それは早期に解決する

・また、親と離れて子どもが暮らさざるを得ない場合は、施設じゃなくて里親や特別養子縁組を基本とする。里親への委託率は現在の2割未満から、75%に大幅アップ。特に就学前の子どもは乳児院(施設)入所を停止。

・それだけ強力に家庭養護を推進するためには、里親の数を増やし、質を高めなくてはいけない。そのため、「里親とチームとなり、リクルート、研修、支援などを一貫して担うフォスタリング機関」を創設し、(現在は非常に手薄な)里親支援を強化し、なり手を増やし、質を高める

・特別養子縁組は社会的養護を要する子どものエグジット(永続的解決=パーマネンシー)になるので、強力に推進。「1日も早く児童相談所と民間機関が連携した強固な養親・養子支援体制を構築」し、5年以内に今の2倍の特別養子縁組成立件数にする。

 

【なぜ施設入所を停止すべきだったのか】

 この中で一般の人には分かりづらいかもしれないのが、乳児院への入所停止の方向性ですので、補足します。

 「特別養子縁組の6歳以上への年齢拡大についての解説」(https://news.yahoo.co.jp/byline/komazakihiroki/20170716-00073348/)でも書いたように、世界的には、施設養護(乳児院や児童養護施設)から家庭養護(里親や養子縁組)という政策転換の流れがあります。

 これは、施設において職員1人に対して、3人から10数人、という人員配置のもと集団生活を送るよりも、家庭的な環境で子どもと両親というマンツーマンに近い環境の方が、子どもの心理的発達においてはポジティブである、という研究結果が下敷きにあります。

 ただ、日本では親元で暮らせない子どもたちの83%が施設で暮らすという状況からも明らかなように、施設養護が長らくメインであり、諸外国に比べて圧倒的に遅れていて、日本の社会的養護関係者や研究者にとって積年の課題でした。

 今回の「新しい社会的養育ビジョン」においては、一気にその転換を目指したと言えるでしょう。

( 注)とはいえ児童養護施設出身の子ども達に何か問題がある、ということではなく、子ども達にとってより良い環境はどんなものか、といった際には、より家庭的な方がベターだ、ということが意図されており、誤解によるスティグマ量産には十分注意しなくてはいけないのは言うまでもありません。)

 

【評価と課題】

 現場でまさに家庭養護に取り組む我々としても、この革命的な方針転換については、歓迎したいと思います。「ようやく」日本もグローバルスタンダードの社会的養護に一歩足を踏み出した、と言えるでしょう。

 ただ、意欲的なビジョンだからこそ、実現には多くの課題があるでしょう。

 まず予算です。新たな体制を創る予算を、本当に政府は支出するのでしょうか。これまで、社会的養護の予算は極めて少ないものでした。社会保障予算全体を削減しようとする中で、本当にこの分野に新たな予算を投下するのでしょうか。

 また、です。フォスタリング機関を創設していって、抜本的な里親支援をすると言っても、これまでの行政機関だけではその役割は担えません。

 民間のNPOや他の子ども・子育て支援で実力を発揮していた福祉団体等がこの分野に参画してくるような働きかけ、また彼ら潜在プレイヤーの育成が欠かせないでしょう。

 そして文化です。児童相談所、児童養護施設、乳児院の職員の方々にとっては、これまでの自己の役割を一部手放し、しかし同時に新たな役割を見出すような納得のプロセスが必要になります。

 こうした心理・行動変容をスムーズに行えるよう、前向きな対話と議論を通じて行なっていくプロセスが必要になってくると思われます。

 いずれにせよ、地域全体で弱い立場にいる子どもを支えに行く体制を、一刻も早く構築していかねばなりません。社会的養護の世界は、まさにその産みの苦しみの只中にいて、しかし今、新たな方向性を打ち立てたのです。

 厚労省、学識経験者、現場のみなさん、すべての関係者の皆さんの、勇気ある議論と創造のプロセスに、敬意を評します。

 
追記:
 本件にも深く関係する議論を、8月7日に国会議員・厚労省担当者の方々と一緒に行います。興味のある方は、ぜひお越しください!
 

 

HOMEブログトップへ